「観光革命」地球規模の構造的変化(196)日本版DMOの可能性
2018年3月4日(日) 配信
インバウンドの激増に伴って、日本各地でDMO(観光地経営組織)への注目が高まっている。観光庁は昨年11月に「日本版DMO」の第1弾として41法人を正式登録している。
欧米のDMOに精通している高橋一夫教授(近畿大学)は、DMOの望ましい在り方として5つの要件を指摘している。①官民共同で設立され、地域に持続的な経済効果をもたらす組織である②観光行政との役割分担のもと、与えられた権限に伴う結果に責任を持つ③観光地経営に伴う専門性を持つ人材によって経営・業務執行がなされる④多様で安定した財源を確保し、ステークホルダーとの良い緊張関係を保つ⑤観光関連事業者だけでなく、農林水産業・商工業関係者など地域づくりに参画するさまざまな担い手と関わりを持つこと――である。
今回、広域連携DMOとして正式登録された「一般社団法人せとうち観光推進機構」は瀬戸内を共有する7県(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県)を中心にして16年に設立。さらに同年に「㈱瀬戸内ブランドコーポレーション」が瀬戸内エリアの金融機関(地方銀行12行、信用金庫6庫など)を中心にして設立され、続いて「(株)せとうちDMOメンバーズ」も設立。
これら3つの組織が緊密に連携して「せとうちDMO」が運営されている。
具体的事業として、主要6テーマ(サイクリング、クルーズ、アート、宿、食、地域産品)、情報発信(インターネットメディアSETOUCHI Finder)、瀬戸内ブランド登録制度(822商品)、会員制度(せとうちメンバーズ731社)、会員サービスなどが展開されている。さらに地方銀行などの出資で設立した「せとうち観光活性化ファンド(総額98億円)」を活用した事業支援(瀬戸内周遊クルーズ事業、古民家宿泊事業など)も行われている。
行政とDMOと民間(観光関連事業者)の役割分担を明確にしたうえで、日本版DMOの「権限と責任の明確化」が不可欠になる。今回正式登録された「日本版DMO」41法人についても既存の観光協会などがDMOとして認定されており、今後の活動において「権限と責任の明確化」が問題視されることになる。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森 秀三)
コラムニスト紹介
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。