「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(87) 感じる力をアウトプットへ 気づく人と気づかない人
2018年3月31日(土) 配信
「良いサービスを受ける力のない人に、良いサービスは提供できない」と講演で言い続け、「朝起きてから何回、ありがとうございますと言いましたか」とよく質問します。その回数が「感じる力」の差なのです。
例えば、等しく良いサービスを受けても、それに気づく人と気づかない人がいます。サービス提供者は、まず良いサービスを感じる力を付けなければなりません。感じる力が受けるサービスの数でもあるのです。
航空会社CAの研修で、事前にいくつかのホテル、レストランでのサービスを体験するよう課題を与えました。通常の研修と比べて若干コストはかかりましたが、その成果は非常に大きなものになりました。
はじめの研修レポートには、それぞれの感動体験に、「ここが悪い」といったことも多く書かれていたのですが、体験を積み重ねていくうちに、良い体験の話しか出てこなくなりました。「聞いてください。こんな体験をしたのです」と、人に話したくなるようなサービスを受ける力が身に付いてきたのです。
そのCAたちと先日、リッツカールトン東京のアジュール45で食事をしました。担当テーブルスタッフのあいさつが終わり、一皿目のお皿が配られようとしたときです。「○○さん、ありがとうございます」とCAたちが、テーブルスタッフに声を掛けているのです。
体験のなかで、名前を呼ばれることの嬉しさを感じ、今度はそのうれしさをリッツのスタッフに実行しているのです。当然のように、そのスタッフはどんどん笑顔になり、サービスも良くなっているように感じました。それがさらに良いサービス体験となることをCAたちは気がついたのです。
翌日には、どんなサービスが印象に残ったか話し合いました。インプットした多くのすばらしい事例がどんどんと出てきました。今度は、それらをどのようにしてアウトプットして仕事に活かすかです。あるCAは、おもてなしのひとつの「名前を呼ぶ」という行動には、あまり重要性を感じなかったが、レストランやホテルで実際に名前を呼ばれてみると、素直にうれしかったので、搭乗時にお客様のお名前を呼びたいという意見でした。
ただ、「搭乗のお客様の名前は、よく利用する方以外はあまり覚えていない」という問題がありました。しかし、実行したいという強い想いが、その方法を見つけ出したのです。それが「搭乗時に席の案内をしたときに、搭乗券を見せてもらえるようにしよう」。そして「搭乗券に記載された名前をお呼びしよう」というアイデアでした。感じる力の強さは、新しいサービスを生み出す力となったのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。