〈旬刊旅行新聞4月11日号コラム〉人気観光地の異変 混雑の激しさと接客態度の低下…
2018年4月10日(火) 配信
旅先での食事は大きな楽しみの1つだ。
メインは夕食だろう。長い旅の1日を振り返りながら、美味しいお酒とともに、地元産の食材や珍味を口にすることは、旅の醍醐味の一つである。
いつもとは違う旅先の客室で目覚め、自分が旅人であることを認識する瞬間も素晴らしい。そして、旅先の朝食も、夕食に匹敵するほど、魅力的だ。
近ごろは、「朝ごはん」にこだわる旅館やホテルも増えてきた。野菜や果物などの新鮮さや、炊き立てのお米、焼き立てのパン、絞ったばかりのフレッシュジュース、挽きたてのコーヒー、バターやジャムなどの〟こだわり〟が、夕食以上に意識されやすいのも朝食の特徴だ。
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夕食や朝食に比べ、旅の途中の昼食は重きを置かれないことも多いけれど、旅の成否を大きく分けることが多々ある。とくに日帰り旅行では、昼食は主役級である。
そんな旅の重要な部分を占める昼食ではあるが、団体旅行でなければ、食事処やレストランを予約しないケースが多いのではないか。その日の宿泊施設や、遊ぶ場所、観光名所に立ち寄る計画は立てても、昼食は「旅先でどこかいい店があったらそこに入ろう」「途中、美味しそうな店があれば、そこに決めよう」というパターンが多い。旅の成り行きに任せてしまう、といった扱いだ。
しかし、旅の途中に「雰囲気が良くて、美味しい店」は、そうそう見つからないものだ。道路脇や駅周辺の飲食店は自宅の近所にもあるチェーン店がほとんど。「せっかく旅に出ているのだから、ここにしかないローカルな店を探そう」と力んでしまうと、いつのまにか山道に入っていたり、郊外に出ていたりという経験は1度や2度ではない。結局、どこにも店が見つからず、空腹のまま旅の目的地に着いてしまうこともある。
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一方、人気観光地内であれば、飲食店はひしめくほどあるので、「そぞろ歩きしながら店を選べばいい」と考えてしまう。
最近、人気観光地の異変が少々気になっている。それは飲食店の混雑の激しさと、接客態度の低下に対してだ。もともと、「観光地の飲食店は高い」というイメージがあるし、実際そうである場合が多い。とくにメイン道路に面している店は、近年の外国人観光客の爆発的な増加によって、その混雑度は一層激しくなっている。観光客がひっきりなしに入って来るので、経営努力をあまり必要としない幸運? な店も、なかにはある。
平気で1時間くらい待たせる店も少なくない。それだけならいい。客が店に入って来ると、自分たちが忙しくなるので、無視したり、露骨に嫌な顔をする店もある。
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バブル期に旅行作家の野口冬人さんが、ある温泉地の旅館経営者から「お客さんを上手く断る方法を教えてほしい」などと相談され、「憤りを覚えた」とおっしゃっていたことを、ときどき思い出してしまう。客を捌く姿勢が端々に感じられると、「また行きたい」と思うはずがない。人気観光地の驕りは、旅行者にすぐに伝わる。通りにはたくさんの観光客がいても、割高な料金設定と劣悪なサービスの店が並ぶ観光地は、寒々しく映る。
難しい問題だが、にぎわう観光地が陥りやすい落とし穴である。
(編集長・増田 剛)