ビッグデータから戦略練る 「テクノロジー通して革命を」 【エクスペディアHD 販売促進部長・森 美月氏に聞く】
2018年4月20日(金) 配信
世界の旅行者の3分の1が旅先を決める検討段階で、OTA(オンライン旅行会社)を利用している――。エクスペディアホールディングスはこのほど、OTAや旅行者に関する各種調査をとりまとめた。OTAは旅行者に浸透し、役割も変化している。一方、膨大な利用者のビッグデータを分析して、宿泊施設へ貴重な情報を提供。宿泊施設はこれらから戦略を練ることができる。今回、調査結果や取り組みについて、販売促進部の森美月部長に聞いた。【平綿 裕一】
OTAはその規模を増している。エクスペディアグループをみると、17年の予約総額は16年比で13%増の10兆円となった。総予約室数は同16%増えた。現在、全世界で59万施設の取り扱いがあり、17年は同69%も伸びた。
もともと同社は米国・マイクロソフト社の一部門として始まった。これまで米国に特化していたが、近年は欧州やアジア市場の開拓も進む。「日本は15年と比べ、17年は宿泊施設と営業部隊の数は3倍に増やしている」(森部長)と日本市場に力を入れる。
このほか、技術開発への投資を成長戦略の柱に据える。17年は16年よりも200億円多い、1500億円を投資した。宿泊施設・利用者の両面のプラットフォームの改善を日々進めている。
旅行者側の利用も増え、毎月のアクセス数は17年で6億7500万回(同12・5%増)にまで伸びている。
「我われが目指しているものは、テクノロジーを通して旅行業界に革命を起こすこと。宿泊施設と旅行者のニーズを取り込みながら、進化を続けていきたい」。
□OTAの役割の変化3分の1が検討時に
一方、OTAが普及していくなかで、役割が変わってきた。世界の旅行者の3分の1が、検討段階でOTAを活用していることが同社の調べで分かった。
「4、5年前には宿泊施設を予約するだけだった。今は、旅先を選ぶツールとしての役割が大きくなっている。旅行者は膨大な情報源から、上手く検索して自分に合うコンテンツを探している」という。
国内市場も変化の兆しがみられる。「日本も海外OTAを国内で利用する人が多くなってきた。年々、OTA自体の概念が変わってきたと感じている」と振り返る。
□写真でCVRが11%増
旅行者は計画段階で、施設の掲載写真に対して関心を示す。「施設でどのように過ごせるか」をイメージするためだ。最低20枚以上であれば、転換率(CVR)が上がるといったデータもある。同社の調査によれば、写真の閲覧枚数はモバイルが平均35枚で、タブレットでは倍以上の平均75枚だった。
米国旅行者の35%は、45日間で旅行サイトに平均140回アクセスして予約に至るという。予約まで毎日3回以上 見ている計算になる。
写真タイプ別では、バスルームやレストラン、部屋などの重要度が高い。レストランや食事処は、口コミの10件に1件の割合で書かれている。「旅行者が期待しているポイントの1つ」だと分析する。
他方、1つの部屋タイプに複数の写真を掲載すれば、転換率は約11%上昇するといったデータもある。「さまざまなアングルやアメニティのほか、細かな部分も載せたほうがいい」とする。
□口コミが予約動向を左右6―12件をチェック
計画段階においては、口コミが予約動向を左右することが増えている。「旅行者からすると、掲載写真や料金体系などと同じぐらい必要なコンテンツになった」。
調査では約半数の旅行者が、口コミの無い宿泊施設には予約をしないとの回答があった。旅行者は、平均して6~12 件ほどの口コミをみる。およそ画面1ページに表示されているものは、一通り目を通しているのだ。
口コミへの対応も欠かせない。調査では6割以上の旅行者が、口コミに返信する宿泊施設を「予約したいと思う」と応えている。
否定的な口コミに対しての返信も手は抜けない。評価の低い口コミに適切な返信をしていると、好印象になると回答した旅行者は約9割(87%)にまで上る。
□満足度向上でリピート率40%向上
同社によれば、満足度の高い旅行者は施設へのリピート率が40%向上する。宿泊前から滞在中にかけて、満足度が高い施設は、消費額が約1万円以上変わってくるという。「通常の平均消費額は457㌦だったが、満足度が高い旅行者は588㌦も消費している」。
満足度向上には、利用者との交流がカギとなる。同社では旅マエから旅アトまで一貫したサービスで支援する。
旅マエでは「EPC Conversations」を提供。すでに施設と利用者で600万件の会話、980万件ものメッセージのやり取りがある。
旅ナカでは「EPC Real‐time Feedback」を用意。チェックインが良いか悪いかなどの単純なアンケートを送り、利用者が感じた問題を、その場で改善できるようにしている。
その後、口コミの投稿依頼も行う。「旅マエから旅ナカ、旅アトまでサポートしている。すべての段階が大事だと認識してほしい」と呼び掛けた。
□日本特有の課題も 約2割の旅行者失う
2017年の訪日外国人旅行者は2869万人を超え、今年に入ってからも好調だ。20年の東京五輪を目前に、数はさらに増えることが見込まれている。ただ、日本特有の課題もある。「在庫出しの期間は、世界基準で1年以上前となっているが、日本は未だ6カ月前といった商慣習が残っている」と指摘。
世界には半年前から予約する旅行者が、約13―20%いる。在庫出しをしていないことで、世界の旅行者全体の約2割を失っていることになる。この分が他のアジア圏へ流れる可能性もある。インバウンド増加の流れにも水を差しかねない。
「今は世界各国がライバルだということ。この意識を浸透させることが、我われの課題の1つ」と語った。
□森 美月 販売促進部 部長
2013年 エクスペディアホールディングス入社。15年までアソシエイトマーケットマネージャーを務めた後、同年10月に東京地区のマーケットマネージャーに就任。16年10月からシニアマーケットマネージャーとして名古屋地区を中心に営業戦略策定や新規顧客獲得などを担う。ザ・ホリー・クロス大学卒業。英語が堪能。
Googleトレンドを利用するとこの会社の凋落ぶりがよくわかる。語っている数値も自社のものではなくほとんどが引用ですね。