〈旬刊旅行新聞4月21日号コラム〉フラワーツーリズム 1年を通じ旅行動向の主流を形成
2018年4月20日(金)配信
先日、長野県伊那市の高遠城址公園の桜を見に行った。日本屈指の桜の名所として知られるが、なかなか訪れる機会がなかったが、ようやく長年の念願が叶った。
日本列島は南北に長いので、3月下旬から5月上旬まで桜前線の北上に沿って旅をすれば、儚い桜の満開を再び愛でる機会が残されている。
東京ではすでに散ってしまった時期に、仕事で東北を訪れた折、予期せず満開の桜と再会し、心動かされたことも思い出す。東北の桜は美しい。厳しい冬を過ごした人々の、長い待ちわびた春への強い想いが薄紅色の桜に投影されるからだろうか。近い将来、弘前城(青森県)の満開の桜を見てみたいという気持ちが強まってきている。高遠の桜を見たあと、南信州・阿智村の昼神温泉を訪れた。こちらも阿智川沿いに桜が満開であった。朝市広場を中心とした温泉街や桜並木には多くの観光客でにぎわっていた。これからの時期は、南信州に花桃が咲き誇り、全国から多くの人が訪れるだろう。
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花の名所は、全国各地に存在する。例えば、早春には静岡県・伊豆半島は河津桜を目当てに大型観光バスが列をなして向かう。菜の花とともに、伊豆の春の風物詩である。4―5月には埼玉県の秩父での芝桜も人気だ。富山県砺波市のチューリップフェアは国内最大級の花の祭典として有名である。福岡県北九州市の河内藤園の藤棚も根強い人気を持つ。6月の梅雨景色には首都圏近郊の箱根や、鎌倉では紫陽花が美しく彩り、観光客が押し寄せる。夏を迎えるころ、北海道では富良野のラベンダー畑を訪れるツアーが多数設定される。
真夏は黄色いひまわり畑が壮観である。神奈川県座間市もひまわりが咲き乱れる。秋には秋の風情を求めて、箱根仙石原に広がるススキを、あるいは、日光のいろは坂など紅葉の名所を目指して、人々は大移動する。1年を通じて、フラワーツーリズムが旅行動向のメインストリームを形成している。花は、どうしてこんなに人々の心を魅了するのだろうか。きっとそれぞれの季節を最も全身全霊を込めて体現しているからかもしれない。
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大切な客人が訪れるとき、玄関先に花を飾る。客は花によって歓迎されている気持ちになる。レストランでも、旅館やホテル、個人の家でもそうである。希少な高級花であっても、人知れず野に咲く花を摘んで来て飾られていても、客をもてなす人の心が客に伝わってくることには変わりない。
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観光地の入り口に花が植えられていると、旅人は無意識のうちに親しみを感じるものだ。高遠は町に入った途端に、たくさんの桜が目に入って来た。千葉県房総半島の南端のまち・館山市もそうだ。道路脇に、町中に花が揺れている。沖縄を訪れると必ず心を奪われる風景がある。それは、青い空の下に咲く赤いハイビスカスの花だ。沖縄を離れた後も、赤いハイビスカスが旅人である自分を取り巻く現実を、夢の世界のように鮮やかにしてくれていた印象をいつまでも残す。流れる季節を麗しく体現する花を探しに、各地へ旅に出ようと思う。
(編集長・増田 剛)