「女将のこえ210」小幡美香さん 、竹葉(島根県安来市さぎの湯温泉)
2018年5月20日(日)配信
□どじょうすくい女将
安来(やすぎ)市に伝わる民謡「安来節」。大正から昭和初期に大流行して全国に名を馳せた。現在も毎年、3日間にわたる全国大会が開かれる。その安来節に欠かせないのが「どじょうすくい」だ。豆絞りを被って一文銭を鼻に当て、滑稽な踊りで沸かせる。
美香さんは、自らどじょうすくい女将を名乗り、顧客、宿、地域のために喜々として伝統芸を披露している。近年は、社員研修として教わりたいとの宿泊依頼もあるそうだ。
「師匠が、『名物女将にならんかね』と声をかけてくれました。大半の人には、若い女性がやるもんじゃないと言われましたが、発祥の地なのに安来節が見られる宿がなかった。人を笑わせるのが好きですし、誇りを持ってやっています」
松江から嫁いで21年。結婚前の7年間は、日本最大の機関投資家である農林中央金庫に勤め、キャリアを積んでいた。日本の農業を支える意気込みだったが、ソフトな人柄の浩三(ひろみ)さんと出会い、「愛こそすべて」と、女将の道へ。
ところが、当時は開店休業状態。近隣地に挨拶に出向くと「営業していたの」と驚かれた。危機感を覚えた美香さんは営業を開始。
「地元企業さんに『嫁に来ました』と足を延ばし、SNSも始めました。結婚1年間は会社勤めを続けていましたが、勇気を持って辞め、女将業に専念することにしました」
2年目に露天風呂が完成。「1歳の娘と私がまさにひと肌脱いでパンフレットのモデルになりました。いつも『最小労力、最大効果』を考えます」。3年目に『週刊文春』のグラビアで女将紹介されると火が付いた。
5年目には、隣接する足立美術館が米国専門誌で日本の庭園1位に輝き、「大きな恩恵を受けることになりました」(美香さん)。
料理も資格を取り、薬膳およびマクロビオティック料理を手掛ける。浩三さんは海鮮会席を作るから、竹葉では3タイプの料理が選べるわけだ。「外(体)は温泉で、体の中は料理で。心は家庭的なおもてなしや笑いで。心身に心地良い温かな宿でありたいです」
昨年、美香さんはテレビのバラエティ番組に出演。自身の再現ドラマで初めて、結婚時は借金4千万円があったと知る。「連日の熱烈プロポーズは、『助けて』の意味だったんだなと(笑)」
どじょうすくいは、「苦労しても最後は笑顔で」という哲学的解釈もでき、美香さんと重なる。「日本を代表する女将という職業を通じて地域の仕事もできたら。一生懸命よりも一緒賢明にやっていきます!」。
(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)
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住所:島根県安来市古川町 438▽電話:0854-28-6231▽客室数:7室(18人収容)、1人利用可▽創業:1959(昭和34)年▽料金:1泊2食付12,000円~(税別)▽温泉:ラジウム泉(加水加温なしの源泉かけ流し)▽足立美術館まで徒歩30秒。料理はマクロビオティック、薬膳、海鮮会席の3タイプがあり、ランチ営業もしている。
コラムニスト紹介
ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。