「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(89)マニュアル行動ではお客様を幸せにはできない おもてなし行動の目的
2018年6月9日(土) 配信
先日、ニュースをみて、笑いながらも考えさせられることがありました。タイで中国人観光客に花輪を渡して、笑顔で写真を撮るタイ人女性のサービスが問題視されていたのです。結局、彼女は謝罪してアルバイトを辞めることになったということでした。
その映像をみて「確かにこれはないな」と思いましたが、果たして彼女だけが悪かったのでしょうか。彼女に仕事の目的は、正しく伝えられていたのだろうか、と感じたのです。「笑顔でお客様と写真を撮る」ということしか伝えられていなければ、逆に彼女は素晴らしい仕事をしていたことになります。
実は、日本のサービス業でも同じようなことが起こっています。機内では最幸の笑顔で仕事をするCAたちも、ターミナル内ですれ違うときにその笑顔はありません。ホテルでも、目の前にお客様がいるときの笑顔が、お客様と離れた瞬間に厳しい顔になるスタッフを何度も見てきました。
ある日、かなり激しい雨が降っていたとき、タクシーを待つ長い行列に断念して、宿泊予定のホテルまで傘を差して、キャリーバッグを引きながら歩いていったのです。そこには、笑顔で迎えてくれるホテルスタッフがいました。いつものように、「お荷物お預かりします」と笑顔でフロントまで運び、チェックイン手続きのときには、「お疲れ様でした」と、おしぼりまで出してくれたのです。手続きが終わると客室まで案内しながら荷物を運んでくれました。
彼らには、研修を受けて磨き込んできた身のこなしと笑顔、そして言葉遣いがあります。素晴らしいホテルスタッフたちです。
ただ、客室係が部屋を出たあとに、仕事をするために雨に濡れたキャリーバッグをハンカチで拭いて、PCを取り出すお客様の存在には、まったく気付いてくれないのです。いや、気付いたとしても、教えられた業務以外の行動を起こすことができないのかもしれません。本当に悲しくなってしまう瞬間です。
これまで、たくさんのホテルスタッフと出逢いましたが、多くのホテルで、毎回繰り返される行動で、特別不満を感じていたわけではありません。ところが、先日宿泊をしたビジネスホテルでは、雨に濡れたカバンに気付き、「拭かせていただいてもよろしいですか」とタオルを手にした別のスタッフがフロントから出てきてくれたのです。
この2つのホテルスタッフの行動の違いは、どこから生み出されるのでしょうか。任された仕事に真剣に向き合うスタッフの気持ちは同じでしょうが、実行されるおもてなし行動の目的が違うのです。教えられたことを完璧に実行するだけでは、お客様を幸せにはできないのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。
接客以外のモーメントまで、何を求めているのでしょうか。昨今叫ばれているのは日本のサービスの過剰労働と生産性です。
ホスピタリティとは接客業上では、想像とそこから導き出される行動ですが、広義では相手に対する寛容も含んでいます。これは他者との違いを尊重することにもつながります。ホスピタリティの根本をもう一度確認してください。