「井川今日子のおもてなし接客術(31)」システム×おもてなし
2018年6月17日(日) 配信
旅館の接客の現場でも、スマートフォンやタブレット端末の導入が普及し、業務の効率化や顧客満足度向上につなげられています。
例えば、紙伝票を起こすことなくタブレット端末でチェックインの手続きができるようになり、お客様が紙の宿帳に記帳する手間が省けます。具体的には、予約時に伝えていた住所や電話番号が予め入力されたタブレットの画面を見て、誤りが無ければ署名をすれば良くなります。
ドリンクの注文も、これまでは注文を受けたスタッフが、裏方に戻ってからでないとドリンク作りに着手できなかったことが、注文を受けた時点で端末入力すればその内容が共有され、手が空いているスタッフが代わりに作ることもできるため、お客様を待たせずにドリンクが提供できるようになります。
そのほか、端末から顧客情報を確かめることもできるため、リピーターのお客様には、再度聞くことなく過去の宿泊履歴から好みを確認できたり、記念日やお子様の名前を呼べたりするのです。このシステムの導入で、いわゆる“気の利いた”対応ができるわけです。現時点で、このような取り組みをしている旅館はまだ多くないかもしれませんが、今後普及していくと予想されます。
ただ、ここで考えなければいけないのは、スタッフがシステム(端末)に振り回されてはならないということ端末を導入した旅館での接客研修をすると、スタッフが端末に依存しすぎる傾向があり、クレームをもらいやすくなってしまうことがありました。
端末ではさまざまな情報が確認できるため、見なくても良いタイミングで端末を閲覧して、お客様の気配に気付くのが遅くなってしまったり、お客様の目を見ずに端末の画面を見ながら会話を進めてしまい、失礼な対応を取ってしまっている、といったものです。
一部では、業務用の端末であることに気が付かずに、スタッフがプライベートのスマホを操作しているのだと誤解していたお客様もいらっしゃった、という話も耳にしました。
本来は顧客満足度向上を目的に導入した端末でも、使用する人が使い方を間違えると返って満足度が下がってしまうことがあります。
あわせて気を付けなければならないのは、スタッフが端末を持っていると、当然お客様の期待値や要求度合いも上がるということです。端末を携帯しているにも関わらず、先回りした対応ができなかったり、お待たせしてしまうようなことがあると、「なんでこんなこともできないの」という評価をされる場面が、増えることが想定されます。
システムの導入で便利になる反面、スタッフには基本的な接客対応と機転の速さ(おもてなし)がますます求められるようになるでしょう。
(おもてなしコンサルタント 井川 今日子 )
コラムニスト紹介
おもてなしコンサルタント 井川 今日子 氏
大学で観光学を学んだ後、船井総合研究所を経て、10年に観光文化研究所入社。全国の旅館や観光協会を中心に、女性の感性を活かした集客・固定客化支援で活躍中。商品戦略や販売促進、現場接客サービスなど多岐にわたり提案。