「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(161)」北前船の寄港地 安宅のまちづくり(石川県小松市)
2018年6月28日(木)配信
1年半ぶりに訪ねた石川県小松市。前回は弥生時代の碧玉の玉づくりに始まる日本遺産(『珠玉と歩む物語』~時の流れの中で磨き上げた石の文化)の認定を記念したフォーラムに参加させていただいた。
今回の舞台は、日本海に注ぐ梯川の河口に広がる北前船船主集落・安宅のまちである。安宅は、古代北陸道の宿駅(安宅駅)が置かれ古くから栄えた地である。小松湊は今の中心市街地・小松町と水路で結ばれ、梯川から引き込まれた多数の水路や堀で何重にも囲まれた浮城小松城下の外港として栄えた。その小松は既に江戸時代初期には藩米を大坂に直送する試みがなされていたが、北前船の本格化に伴い、安宅湊はさらに大きく繁栄した。
安宅湊からは、江戸期には絹、畳表、茶、芋、九谷焼、宇川石などが積出され、江戸末期には石製品も主流となった。明治以降は、これらに加えて地域産品の銅や羽二重、瓦などが加わり、北前船による海運が小松の経済を支え、地域に富と多様な食や文化をもたらした。
安宅といえば、多くの方々は歌舞伎18番「勧進帳」で知られる安宅の関をイメージする。その舞台、安宅住吉神社の対岸には、北前船の船主建物などが集積している。訪問した当日、安宅のまちでは、北前船船主や廻船問屋の屋敷を巡るスタンフラリーイベント「花の安宅に着きにけり/安宅夏の陣」が開催されていた。
その1つ八田家では100年前につくられた御殿雛が飾られ、北前船主瀬戸家では、華麗な花嫁衣装や豪華な家財道具などが披露され、内外から集まった多くの観光客を魅了していた。このイベントは毎年開催されており、今年は北前船主が奉納した多くの船絵馬などがある安宅住吉神社も加わった。イベントは、町民有志でつくる「安宅活性化倶楽部」の主催で、毎年、2日間にわたって開催されている。
安宅のまちなかには、いまでも古い料亭が残り、昔から続く伝統の味を伝えている。また、9月初旬には、3日間にわたって安宅住吉神社の例大祭(安宅まつり)も開催されている。みこし渡御や曳舟、獅子舞、輪おどりなど、まちなかは、かつての北前船の時代を彷彿させるような活気を取り戻す。
しかし、高齢化の進展や人口流出とともに、これらの祭りを担う若者の減少、地域の商工業(なりわい)の喪失など地域の空洞化も深刻である。日本遺産・北前船集落の追加認定は、こうした安宅の歴史に改めて光を当て、地域の自信につながるものと期待される。
船主建物などは、今は、イベント時だけの公開であるが、観光交流客の増加が進めば、これらを受け入れるレストランやショップ、あるいは古民家を改装したゲストハウスなどの整備も期待される。地域が再び活気を呈するには、こうした文化資源を活用した経済の再生が不可欠だろう。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)