「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(90) 無駄が効率的な創客を実現する 「きっと喜んでくださる」
2018年7月1日(日) 配信
打ち合わせのあと、その方々との楽しい懇親会が終わりました。出張続きのうえ、お客様と食事をする機会も多くなり、少し疲れていました。ホテルで早めに休もうと思っていたのですが、そのホテルの最上階に、私の大好きなお店が入っており、この数カ月間、行っていないことが何となく気になりました。
部屋に入ったら出るのが億劫になると思い、ホテルに到着後すぐにレストランに向かいました。スタッフが私の顔を見るなり、「西川さん、お帰りなさい」と、温かい言葉で迎えてくれるレストランです。
「カウンターでコーヒー一杯だけいただきます」と声をかけると、すぐに案内してくれました。カウンター席には「西川さん、お帰りなさいませ。仙台出張お疲れ様でした。今夜もゆっくりとお寛ぎいただけますように」というメッセージカードが、ランプの横にそっと置かれていたのです。
私が宿泊することは、ホテルからレストランに連絡が入っていたかもしれませんが、夜遅いチェックインが多かったので、立ち寄ることは今までもそう多くありません。まして、今回は久しぶりで夜も遅く、「行きます」との連絡もしていません。席が空いていなければ顔だけ出して、部屋に入ろうと思っていたのです。
そんな私を、待っていてくれていたのが、そのメッセージカードでした。思わず言葉に詰まってしまいました。「こんなことをされたら、また来たくなる」。それがレストランカシータのおもてなしなのです。
連絡して行けば、そのメッセージカードはいつもありました。ただ、今回は突然の思い付き行動です。いつ来ても対応できるメッセージを準備していたのか。いいえ、そのメッセージは明らかに、その日だから使えるものでした。
では、「今日は来るかも」と偶然に思い付いて用意したのか。その答えが頭に浮かんだとき、つい涙を流してしまいました。きっといつも宿泊予約した日には、こうしてメッセージカードが用意されていたのではないだろうか。毎回待ち人来ずで、無駄になることの方が多いかもしれない。でも来られたときにはきっと喜んでくださるだろう。その瞬間のために多くの無駄な時間を使う。ここにおもてなしの極意があります。
ビジネスの目的は、創客です。1つの感動が創客につながるとしたら、これほど効率的な営業はありません。スタッフも楽しみながら、お客様が感動されるその風景を想像しながら、メッセージを創ってくれたに違いありません。「わぉ!」と、奥のテーブルから声が聞こえました。またリピーターがこの瞬間に生まれたのでしょう。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。