「味のある街」「冷やしたぬき」――更科(岐阜県岐阜市)
2018年7月8日(日)配信
旅に出て、地元の方におすすめの店を聞くと、その土地の特産品やご当地グルメとは違うものをすすめられることも多い。
岐阜県岐阜市にある、そば処「更科」もその1つだ。岐阜市はそば粉の産地であったり、そば店が集積しているというわけではない。しかし地元の方によく行く店を聞くと、名前が挙がることが多い。
1928年創業の老舗。店は市の中心市街地からは少し離れているが、近くに市役所や警察署などの官公庁、幾つもの企業がある。昼休みに訪れるビジネスパーソンは多く、店の前には列ができる。ただし席の回転は速い。列の長さから想像するほど待つことなく、席に着くことができる。席は座敷と長テーブル。やかんと湯のみが席に置いてあり、お茶を自分たちで汲むのもどこか懐かしい。
人気メニューは「冷やしたぬき」そば。夏も冬も一番人気で、店を見回すと7割ほどの客が頼んでいるかと思うほどだ。大盛の「ダブル」、特大の「トリプル」を頼む人も多い。注文するとあっという間、早ければ1分足らずで出てくる。
麺の上に乗っているのは天かす、油揚げ、ネギ、そしてわさび。濃い色のつゆがかかっている。たぬきそばというと、関東では天かすの乗ったものだが、関西では油揚げが乗ったものを指す。天かす、油揚げの両方が乗っているこのそばは、客の意見を取り入れて誕生したこの店オリジナルのものだ。
一口食べると、そばは絶妙な固さで、つゆとからんで食べ応えがある。油揚げは甘辛く煮てある。そこにさくさくとした天かすの食感、ぴりりとしたわさびの辛さが加わる。食べ進んでもそばは伸びず、最後までおいしくいただける。夏によく合うさわやかな1杯だが、冬にも食べたくなる気持ちも分かる。
評判を聞き、岐阜市民会館で公演を行う歌手なども訪れることがあるという。ゆっくり食べるなら昼食の時間帯を外すのがおすすめだ。近くの「みんなの森 ぎふメディアコスモス」を訪れるのもいい。建築家の伊東豊雄さんが設計した、おしゃれな図書館などの複合施設だ。
(トラベルキャスター)
コラムニスト紹介
トラベルキャスター 津田令子氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。