地域のシンボル取り戻す、復興支援の集い
財団法人日本ナショナルトラストは8月29日、国立新美術館(東京都港区六本木)で「復興支援の集い―地域(まち)の“シンボル”を取り戻すために」を開いた。
東京大学副学長で日本ナショナルトラスト観光資源専門委員を務める西村幸夫教授が進行役を兼任し、元文化庁長官の林田英樹国立新美術館館長と銅版画家の山本容子さんの3人が「地域(まち)のシンボルを取り戻すために」をテーマに、鼎談を行った。
林田館長は大震災後の文化財の復興について「指定文化財に指定された物件は国の援助が入っているようだが、指定されていない物件への対応がこれからの課題」と提起。西村教授は「予算など援助が行き届かないのは、祭りや行事などが地元振興には大切ということがまだまだ認識されていないから」と話した。山本さんは「祭りや建造物、文化を通して『日本』を知ることが重要」と、震災によって再認識された「日本人の心」や「ふるさと」について言及。「震災に関係なく、滅びようとしていた文化や伝統があるという重要なことに日本人は気づいていなかった」と話した。また、祭や文化などが形骸化していくことに危惧を示し、「神輿を担いで楽しむだけというのは違う。大事なのはその後ろにある歴史的背景や意味、精神性を知ること」と強調。イギリスの詩人モリスの言葉「必要なのは失われたものを再建することではなく、残ったものをそのまま残すことが大切」という言葉を紹介し、「そこに宿る精神を伝えていくことが重要」と語った。
予算などについて、林田館長は「行政は地方や民間と連携しながら裾野の広い活動をしてほしい」と要望。また、「修復だけでない、その先を熟考した活動や地域振興をからめた動きなど、熱意のある人をつなげるネットワークが重要」と語り、ネットワーク作りなどナショナルトラストが担うべき役割に触れた。山本さんは人材・人の力・人の技への資金援助の重要性を訴え「人が人に伝えていかなくてはいけない心のある『技』や、熱意・愛を持った人への援助にスポットを当ててほしい」と力説。「『このお金が使われたことで、左官技術の伝承ができ、この建物が存続できた』などストーリーのある顔の見える資金の使い方を」と話した。西村教授は「都会に住んでいると伝統芸能とか別世界の話のように感じるが、今回の震災で皆があらためて日本の伝統芸能の重要性に気づかされた。今夏、お盆に帰省する人が増えたのも、無意識にでもそこに気づいたからではないか。この震災は日本の文化を再認識していくきっかけなのでは」と結んだ。
そのほか、筑波大学大学院の藤川昌樹教授と、気仙沼市教育委員会生涯学習課文化振興係の幡野寛治主幹、盛岡大学文学部日本文学科の橋本裕之教授による各地の報告も行われ、それぞれ「北関東における歴史的建造物被災調査報告」「気仙沼市における文化財の被災状況報告」「岩手県内における無形民俗文化財の被災状況と継承支援」について話した。
なお、日本ナショナルトラストでは、東日本大震災で多くの自然・文化遺産が存続の危機に瀕している状況を鑑み、ひとつでも多くの自然・文化遺産の復旧・復興を支援し、地域そのものの復興への一助となるよう「自然・文化遺産復興支援プロジェクト」を立ち上げた。