オマツリジャパン・加藤優子氏に聞く 「諦める選択肢なくしたい」 お祭りで人とお金をつなぐ
2018年7月11日(水) 配信
お祭りを軸に、地域活性化に取り組むスタートアップ企業オマツリジャパン。2月には「まっぷる」を発行する昭文社と連携し笠間市(茨城県)の観光プロモーションに注力すると発表した。同社代表の加藤優子氏と取締役の橋本淳央氏を訪ね、お祭りとビジネスに掛ける思いを聞いた。【謝 谷楓】
お祭りの魅力を伝えたい
「渋谷・鹿児島おはら祭」(東京都渋谷区、5月)を取材したことがある。PRESSの腕章を付け炎天下のなか、一般観覧者立入禁止の場所から間近で写真を取れたことが誇らしく、暑さも苦にならなかった。毎年約2600人が渋谷に集う様は圧巻だった。
8月に開催を控える「阿波おどり」(徳島県徳島市)の入出者数は4日間で123万人。東北を代表する青森ねぶた祭りには、ねぶたやハネトを一目見ようと260万人が集まる(2014年、青森県)。東北全体をみると、お祭りには329億円の経済波及効果(対個人)があるとの試算も(07年、フィデア総合研究所)。
人とお金を集めることに長けているお祭りだが、役割はそれだけに留まらない。オマツリジャパンの加藤優子代表は次のように話す。
「お祭りはコミュニティそのもの。地域住民が主催するお祭りは、町内ネットワークを深める役割も果たします。東日本大震災後に、毎年定例のお祭りを実施しようと、バラバラに避難した地域住民が被災地に集い、再会した例もあります」。
集客のコンテンツとしてだけでなく、地域に根付く伝統やつながりの象徴こそ、お祭りの本質なのかもしれない。思えば小学生のころ、近所の神社の縁日で、気になる女の子とすれ違い胸が熱くなったこともあった。お祭りには、個々人がその原風景に立ち返ることのできる不思議な魅力が宿っているに違いない。加藤代表は続ける。
「インバウンドの方々にも、お祭りの魅力と楽しさを伝えたいですね。8月末には、東京・日本橋にある外国人観光案内所・ツーリズムインフォメーションセンター(TIC TOKYO)と連携したオプショナルツアーを予定しています。近隣で開催する盆踊りに案内し、地域住民とともに踊ってもらおうと考えているのです。お祭りを通じて交流を深めてほしいですね。法被もプレゼントします(発着場所は要確認)」。
住民とのコミュニケーションのなかでお祭りの魅力に気づいてもらえれば、地域や日本の伝統により深く触れることができる。お祭りのコアはあくまで人と人のつながりだと、加藤代表はみる。
テクノロジーで主催者を支援
現在、オマツリジャパンは役員も含めて7人体制。各々が自治体や企業対応、ウェブ周りと分業し事業を展開している。加藤代表が任意団体として活動をスタートさせたのが14年。これまで築いてきた300人に上る日本人ボランティアスタッフも健在だ。社員旅行や、大手旅行会社が主催するオプショナルツアーの企画にも携わるなど、オマツリジャパンの守備範囲は広い。同社取締役で、ウェブ周りの責任者を務める橋本氏はこう話す。
「フェイスブックのいいね数は7500件以上。毎記事ごとに1500―2千ユーザーへのリーチがあります。日本在住の外国人に対し、オンラインでイベントを告知できるウェブサービス(Meetup)を使って参加者を募ることも行ってきました。プラットフォームづくりやプロデュースにも力を入れていますが、確実に地域への送客を達成する仕組みも整えています」。
お祭りの本質を踏まえつつ実務面もキッチリと熟す姿勢は、主催者らにとって大きな安心材料だ。実際、同社に任せればどうにかしてくれると頼りにする主催者も少なくない。予算はないが、何かできないかという相談例も多い。
人口減少と高齢化が進むなか、この課題に向き合い、地域の伝統やつながりを受け継ぐお祭りをどうすれば持続させられるのか? 考え抜いた末に辿りついたのが、テクノロジーを活用したマッチングサービスだった。
「諦める」選択肢をなくす
昨年7月、お祭りの主催者向けのプラットフォーム(オマツリジャパンリーダーズ)を立ち上げた。プラットフォーム内に独自のお祭り紹介ページを作成するサービスなど、送客以外でも役立つソリューションを提供している。今夏からは、「参加者・スタッフの募集」と「チラシ作成」「参加者向け保険加入(主催者用)」「有料観覧席の販売」といった新機能を順次実装していく。神輿の担ぎ手から運営スタッフの募集、備品の購入、花火の観覧席券販売まで、お祭りに関わるサービスすべてにワンストップで対応するマッチングサイトが本格始動するのだ。
チラシの作成では、フォーマットを幾つか用意し、画面上で選択するだけで、プロのデザイナー顔負けのポスターを作成できる。観覧席券の販売については今後、有料プランとなる予定だが、主催者はほとんどの機能を無料で使えるという。
「企業とのマッチングも今夏にスタートします。例えば、お祭りでビールをサンプリングすることができれば、主催者はメーカーからの協賛金を手にすることができます。備品の購入など、祭りの運営に自由に使えるお金を得られるのです」(加藤代表)。
お祭りに特化したクラウドファンディングも行う予定だ。
「予算がない、人手が足りない。だから今年のお祭りを中止する・諦めるという選択肢を取ってほしくない。そのために、人・お金とお祭りをつなぐプラットフォーム(オマツリジャパンリーダーズ)を立ち上げました。これからに期待してほしい」と加藤代表は力を込める。
個人の原風景となり得るからこそ、お祭りの存続意義は大きい。主催者の思いを具現化する仕組みづくりに挑み続ける。