「津田令子のにっぽん風土記(39)」 デザインで地域をつなぐ道を拓く~ 滋賀県甲賀市信楽町編 ~
2018年7月14日(土)配信
横山絵理さんは焼物、タヌキの置き物などで有名な滋賀県甲賀市信楽町で地域おこし協力隊の隊員を務める。都市地域から過疎地域などに移住し、地域協力活動を行いながら定住・定着をはかるものだ。
鹿児島県・湧水町出身、京都の大学で地域におけるデザインを学んでいた横山さん。グラフィックや広告の会社の就職試験を受けたが、何か違うと感じていたときに、信楽町の地域おこし協力隊を探していると声が掛かった。ゼミの先生から2回もだ。
見学のために初めて信楽を訪れ、駅を出ると「寒いし何もないし、人よりタヌキに会っちゃう。でも案内してくれたのがいい人で、やっていけるんじゃないかと思いました」。自身の経験から「人が集まれる場所」をつくりたいと考えた。
1年目は「信楽まちなか芸術祭」の事務局を務め、地域のさまざまな人と知り合った。2年目からは「FUJIKI」に拠点を置いている。商店街の元陶器問屋をリノベーションした、滋賀県立陶芸の森地域連携拠点のスペースで、さまざまな企画展などが開催されている。横山さんは施設管理などのスタッフも務める。
ただ、悩みも抱えていた。「この先、何をして地域に根付いていったらいいのだろうとずっと考えていました」。協力隊の任期は最長でも3年。その後は自立が求められる。地域に親切な人は多いが、自分の考えを話すことが苦手。「何かを成し遂げたという経験がなくて、自信がないなと思いました」。
そんななか、陶芸の森の館長に母校の同じ学科の教授が着任し、観光協会のスタッフとともに話をする機会を得た。その際観光協会のスタッフは横山さんに、汽車土瓶のパッケージをデザインしないかと声を掛けた。汽車土瓶とは駅でお茶を入れて供するもので、障害児入所施設の信楽学園で作られている。信楽の特産品である朝宮茶を入れ、ローカル線の信楽高原鉄道の駅などで売っている。
地域ならではの要素を整理し、伝えるデザインが求められる。横山さんはグラフィックに苦手意識があったが、悩むなかで発見もあった。「自分の武器は愛嬌だと思っています。どこに行ってもかわいがられることに、やっと自信を持てるようになりました」。
FUJIKIを訪れる人は少しずつ増えている。「地域の団体と市民をデザインでつなぐこと、また自分が加わることで『楽しそう』と思ってもらえるようなことができたらいいなと思います」。
コラムニスト紹介
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。