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「女将のこえ212」漆原 幸子さん、貸切湯の宿 ことね(香川県こんぴら温泉)

2018年7月29日(日) 配信

漆原幸子さん 貸切湯の宿ことね

お客さまに親切に

20室に対して6つの貸切風呂を設け、自由に湯めぐりできる「貸切湯の宿 ことね」

 母体は江戸中期創業の「八千代」で、300年を控える老舗旅館だが、こんぴら温泉の歴史は意外と新しく、1975年に先代14代目が掘り当て、琴平町初の温泉になった。

 ことねは、瀬戸大橋開通時に建てた八千代別館を改装し、5年前に誕生。その2年前に起きた東日本大震災を受け、「絆を育める場に」と、貸切の湯を柱に据えた。近年の取材では、顧客の自宅と快適さを競う難しさを耳にするが、貸切温泉が多数楽しめる環境は、さすがに家では叶わないだろう。 

 「想定していた若い世代に限らず、ご家族やお体の不自由な方にも、人の目を気にせず楽しめると喜んでいただきうれしいです」と語るのは、ことねの女将を主軸に、八千代の若女将として両館を行き来する漆原幸子さん。15代目社長の康博さんと結婚して11年。3児の育児をしつつ、笑顔で奮闘中だ。

 「人と接することがもともと好きで、高松市で飲食店や携帯電話のカウンターで働いていましたが、旅館はお客様がお泊りになり、店を閉めない点が大きな違いですね。妊婦さんも来られますし、責任は大きいです」

 現在は食材の仕入れも担当。「朝、料理長と話してから契約スーパーやうどんの日の出製麺さんへ買い出しに出掛けます。裏方を知ることも大切ですね」

 香川県の旅館の若女将は幸子さんだけかもしれない、と現地で聞いた。業界としては由々しき事であろうし、本人には同世代・同業者の相談相手がいないことになりそうだが、今はSNSがある。

 幸子さんはフェイスブック上のグループ「日本全国顔晴る女将の会」で、各地で活躍する女将とつながり、相談やコミュニケーションを交わす。

 「お客さまからお叱りを受けてもめげないタイプではありますが(笑)、ときには不安も覚えます。尊敬する女将さんたちの言葉や姿に励まされ、学ばせていただいています」

 顧客からも学んでいる。数年前の正月にこんなことがあった。来館時点で不機嫌そうな人に、食事時、にっこりと声を掛けた。「お正月でバタバタしていてすみません」

 すると途端に笑顔になって、「いや、いいんだよ。来年もまた来るよ」と。「そして本当に来てくださったんです。ひとことの大切を教わりました」

 最近は幸子さんに会いに来てくれる顧客も増えてきた。「『お客さまに親切に』という大女将(千代子さん)の志を胸に、継承していきたいと思います」。

(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)

コラムニスト紹介

ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。

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