奈良県南部の風評被害地、観光地は安心安全
昨年9月、台風12号により紀伊半島地域で大きな被害が発生したが、被害の無かった観光地や温泉地も風評被害の影響で宿泊客が減少した。昨年11月24―25日に、近畿運輸局が主催した奈良県の現地視察に参加し、風評被害に翻弄された吉野町や洞川(どろがわ)温泉など訪ね、安心安全の観光地を確認した。
【有島 誠】
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最初の目的地は大阪市内からバスで1時間半の吉野町。桜と修験道で有名な吉野山は「紀伊山地の霊場と参詣道」の中核としてユネスコの世界遺産に登録され、年間約100万人の観光客が訪れる。
山や谷を埋め尽くす桜の木は約3万本。9割が山桜で、4月10日前後の満開をはさみ20―25日間、全山がピンクに染まる。山の下から、上から歩きながら楽しめるのが吉野の桜で、期間中は約40万人の見物客でにぎわうという。
周辺に旅館15軒、民宿7軒の宿泊施設があるが、吉野町の山本茂之観光参事によると「9―10月の予約が3―4割も減少した」という。ただ、現地のようすは以前とまったく変わらず、紅葉の名残が見られるだけだった。
吉野は南北朝時代に後醍醐天皇から4代にわたり南朝方の拠点となり、後に太閤秀吉が花見を開くなど数々の歴史の舞台に登場する。国宝・金峯山寺の仁王門や蔵王堂、後醍醐天皇、秀吉ゆかりの吉水神社など見どころは多い。
吉野町から約2時間。天川村の洞川温泉は、温泉街の風景がアニメ「千と千尋」の世界を彷彿とさせる癒しの地。古くから修験道のメッカ・大峰山への登山基地として栄えたところだ。
山上川に面した温泉街は、提灯を下げた木造旅館20軒余りが両側に建ち並び趣ある風情。ごろごろ水という名水が知られ、各旅館の玄関前に置いた石や木の鉢には、水があふれる。
温泉街でも10月で約2千人の予約キャンセルが発生したという。温泉街はもちろん、近くの龍泉寺、名水取水場、みたらい渓谷ハイキングコースなど直接の災害はまったくなかった。ただ、日本三大弁財天の天河大弁才天神社だけは、一時社務所付近が水に浸かったが、現在は完全に復旧し、参拝を受け付けている。
奈良県では今年3月31日まで、南部への「泊りに行こう」キャンペーンを実施。額面1万円が8千円で購入できる宿泊旅行券も販売し応援する。