「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(91) 「きっかけ」をつくらなければ、偶然を数%でも必然に
2018年8月11日(土) 配信
その宿に泊まりたいから、次の旅はここにしよう。そんなうれしいことを考えてもらえる宿は、残念ながらまだまだ少ないように思います。次の休みはこの辺りに旅をしようと目的地を決めて、その周辺の宿を探すのがふつうです。しかし、宿は一生懸命に自らのハード面や食事の違いを伝えようとするため、選んでもらえる対象者が限られてきます。
先日、「旅を売る宿」と題したセミナーを開催しました。まずは、地元に来てもらえるお客様づくりから始めようと提案するものです。宿のホームページを見ると、周辺観光地情報は出ていますが、内容は旅先をすでに決めた人が見る情報に過ぎず、その地に行こうという「きっかけ」にはなっていません。
それは本来、観光行政や観光協会などの仕事かもしれませんが、宿も地元に来てもらうお客様を創客するための「旅づくり」に取り組まなければならないと強く考えています。
もうひとつ、その宿に泊まりたいからそこに行くお客様を創造する術があります。それが「人」です。おもてなしです。
ただ、単に滞在の不満を失くし、満足してもらうためだけのおもてなしでは足りません。それは、お客様にいただいた奇跡の出逢いを、次の必然に変える取り組みが真のおもてなし行動です。
先日、「その方に逢いたい」と思い、宿泊した宿があります。宮城県にある「ホテル蔵王メッツ」がそのホテルです。オーナーシェフの佐々木さんは、おもてなしセミナー仙台に皆勤賞でご参加いただいている方です。
その仕事場に伺いたくて、ようやく訪問が叶いました。そこで人気の宿の秘密を見たのです。私が行くということで、朝から山に入って、出はじめの珍しいきのこを1時間以上も歩いて探して下さったそうです。コース料理の途中で、きのこの話をしながら各テーブルを回っておられました。
もちろん「○○さん、今日はご来館いただきありがとうございます」とお客様の名前を呼びながら、名刺も渡していました。お客様の大切な時間だからと、接点を持たずにお客様を帰していたら、次のお客様の滞在は偶然の域を出ません。
仕事はその偶然を数%でも必然に近づけることです。そのために、お客様との会話も積極的に持つことを重視されています。結果、たまたま来た方が次の予約をして帰るという奇跡を創り出しています。そのときには、新しいお客様を連れて来てくれるのです。
「人」が最大の商品となり、「またその人に逢いたい」。あるいは、「口コミで聞いたその人に逢いたいから行ってみたい」、という「きっかけ」を創造することが、宿の営業を変えるのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。