【特集No.499】直販・最前線 オンライン予約の現在・未来
2018年7月31日(火) 配信
宿泊施設が、客室在庫と価格を決定する――。OTA(オンライン旅行会社)の台頭は、宿泊業と旅行業間にあった商習慣を改め、宿主体の流通実現に期待が掛かった。一定の成果はあったものの、宿だけで在庫と価格を決定しプロモーションを推進することは構造上まだ難しい。とくに、集客の要であるネット上での露出は、OTA頼りという宿も珍しくない。テクノロジーの進化によって、宿泊業と旅行業の関係は本質面で変われるのか? 直販支援とメタサーチ、双方の取り組みを通じ、オンライン予約の現在・未来を考える。【謝 谷楓】
□宿泊と旅行業の関係刷新 鍵は直販支援とメタサーチ
直販促進は、宿泊施設の利益率を高めるだけに留まらない。宿泊業が、3・4兆円規模のオンライン旅行市場(電子商取引に関する市場調査)に参入することであり、旅行業との関係刷新を意味するのだ。前年比11・0%増で、サービス産業の5割を占める一大市場。宿一軒一軒はどう立ち向かい、結果を出せば良いのか? 直販支援とメタサーチがその鍵を握る。
ホテルのOTA・TTA(既存旅行会社)への依存度を見ると(【図】参照)TTAの低下は著しいが、OTAは高まっている。肝心の自社(直販)サイト経由の予約率はじわり増加傾向。リアルとデジタルでのマーケティングの重要性など、旅行会社の力なくして集客が難しいのも事実だが、利益に直結する直販への期待はやはり大きいようだ。
直販をサポートするシステムベンダーのTRASTAとダイナテック、メタサーチのスカイスキャナージャパンのアイデア・取り組みを追った。
□“脱OTA”に挑む
「フィンテックの台頭が示すように、仲介手数料の低コストが一般化している。その潮流を宿泊事業にも及ぼしたい」。トラベルテックを標榜するスタートアップ企業TRASTA(木地貴雄代表)が、本紙のインタビューに答えた。
PMSがIoT機能を束ねる
旅マエとナカ、アト。トラベルテックの目的は、いずれの領域にもテクノロジーを導入し、ユーザーの利便性増進と予約数アップを実現すること。TRASTAでは、宿泊施設のオペレーション・マーケティングスキルの改善も視野に技術開発を進めている。インタビューでは“脱OTA”というチャレンジングなワードも飛び出した。
新しい市場の創造が、ベンチャーとしての役割だと捉える代表の木地氏。「イノベーションを起こさなければ市場は取れない。OTAでもメタサーチにもできないサービスを宿泊施設に提供することが使命だ」と意気込む。
PMSや予約システムはすでに広く普及し、OTAやメタサーチ経由によるブッキングが当たり前という状況のなか、勝機はあるのか? まずはIoT技術を運営業務の改善に役立てることが必要だとみる。
同社はPMS“Book”の開発と並行して、2016年に福岡・博多でホステル(&AND HOSTEL)をオープン。スタッフの労働時間や心理的負担を計測し、IoT化による解決を目標に開発を進めてきた。
例えば備品庫にカメラを設置し、リネンの補充を自動で知らせることができれば、施設内でのルーティン作業を簡略化でき、スタッフの負担軽減がはかれる。開発する“Book”にはこのIoTの管理機能を付与。従来なかった機能を持たせ、かつ各施設既存のPMSと並行して使えるよう販売方法を工夫することで、新しい市場を開拓する構え。「複数の料金プランを定め、施設は需要に応じたプランを選択すればよい。メリットがあると判断すれば、丸ごと“Book”に乗り換えることもできる。施設規模は問わない」(木地氏)という考え方だ。
では、OTAらが担う予約分野については、どう攻めるのか?
MAで“脱OTA”
予約分野では、MA(マーケティングオートメーション)の支援が鍵となりそうだ。……
【本文より一部抜粋。全文は、本紙1721号または8月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。】
□宿と企業の格差是正 テクノロジーを施設に還元する
「自社サイト経由のコンバージョンレートを上げること(CRO)が、最適解だと考えている」。ヤフーグループの一員でもある、老舗システムベンダー・ダイナテック社長の齋藤克也氏は力を込める。予約システムやPMS開発で業界を牽引してきた同社。近年は宿の視点から、OTAのノウハウ・テクノロジーを宿泊施設に還元する試みも多い。
偏りを是正したい
Direct In(ダイレクトイン)とDynalution(ダイナリューション)、業界人であれば一度は耳にしたことのある予約システムとPMSだ。開発提供に従事してきたダイナテックは2015年、ヤフーグループの傘下に。Direct Inに参画する施設が、自社サイトで販売する(直販)プランをそのままYahoo!トラベルに掲載できる新しい集客モデル(D―RISE)を実現した。
D―RISEの手数料は5%(成功報酬)、OTAでの販売に比べ宿の負担が少ない。自社プランを直接OTAに掲載することで、宿は客室確保と商品企画に掛かる時間・手間の削減も期待できる。これなら、自社サイトが検索上位に表示されるか否かにかかわらず、宿泊施設は自社プランを優先して売り出せる。OTAのマーケティング力を逆手に取ることで、宿泊施設がより主体的に販売・プロモーションできる体制を整えたのだ。
「OTAの必要性は十分承知しているが、宿との力関係がアンバランスなのも確か。“独自のやり方を追求したい”や“手数料削減を”という宿の需要に応え、業界内の偏りを是正したい」と強調する齋藤氏。情報格差を改め、自社サイトとOTA、TTAの販売比率の均衡が適正経営につながるとみる。
成約率を高める
OTAのノウハウを宿に還元する仕組みは、新しい予約システムでも生かされている。
全面リニューアルを控える予約システム・新Direct InではCROを念頭に、成約につながるUIの開発を進めてきた。……
【本文より一部抜粋。全文は、本紙1721号または8月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。】
□メタサーチ・一問一答 「掲載のみなら手数料ゼロ」
6月にSNS(交流サイト)大手のLINEが参入を発表。業界内外問わず、メタサーチ(旅行比較サイト)への関心は高い。あまり知られていないが、宿にとっては新しい販路の1つにもなる。そのメリットをめぐって、スカイスキャナージャパンのシニア コマーシャル マネージャー(営業統括)武藤司氏に話を聞いた。
◇
――メタサーチの仕組みについて。
在庫を持たず、複数のOTAや自社(直販)サイトに掲載されている商品を横断的に検索・比較できることが特徴。スカイスキャナーでは主に、航空券と宿泊施設、レンタカー商品を取り扱っている。宿泊プランの場合、手数料は掲載元からもらう。掲載元がOTAならOTA、直販サイトなら宿泊施設からとなる。
――メリットは?
宿泊施設であれば、直販サイトで販売する商品・プランを掲載可能。OTAを経由せず、直接自社サイトに誘客できる。ユーザーの使い勝手を一番に考えた検索機能やUIも高い評価を得てきた。価格帯や評価、グレードなど、検索結果のソート機能も充実しているため、自社プランが埋もれ難いことも利点だ。
スカイスキャナージャパンが価格・順位を調整することはない。
――手数料は。
連携(掲載)のみであれば、手数料は発生しない。予約成立や提携サイトのクリック数に応じて発生する仕組みだ。……
【本文より一部抜粋。全文は、本紙1721号または8月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。】