「味のある街」「磯部せんべい」――舌切雀のお宿 磯部ガーデン(群馬県安中市)
2018年8月5日(日)配信
私が理事長を務めるNPO法人ふるさとオンリーワンのまちでは、独特の風土や伝統文化、産物、無形のおもてなしなどユニークな観光資源を「ふるさとオンリーワンのまち」として認定している。昨年10月、その第10号として群馬県磯部温泉組合の「温泉マークを後世に残していく活動」を認定した。
江戸時代初期の1661年、評定所に出された文書に、磯部温泉の場所を示すものとして湯気をあしらった記号が書かれている。これが現在確認できる最古の「温泉マーク」だとされている。2016年に経済産業省は、現在の温泉マークが外国人には分かりづらいと、国際規格のデザインへの統一を提案した。安中市や磯部温泉組合の懸命な温泉マーク存続の働きもあり、表示者がどちらかを選択できることに決まった。
磯部温泉では2月22日の「温泉マークの日」をPRするイベントを昨年から開くなど、発祥の地のアピールに一層力を入れている。
今年6月、磯部温泉にある舌切雀のお宿磯部ガーデンの方々にお招きいただき、ホスピタリティについての講演をさせていただいた。その帰りに、お土産にといただいたのが磯部せんべいだ。
磯部せんべいは磯部温泉の源泉水を利用して作られている。1873年に群馬県によって源泉水の飲用などが許可された。その後土産物として考案された、薄く軽く焼き上げてあるせんべいだ。多くの店で作られており、店によって形、味にはさまざまなものがある。私がいただいたのはシンプルなせんべいだ。口にするとほのかに甘く、しかし、しつこくなくあっさりとした味わいだ。源泉水には炭酸が含まれているからか、さくっと軽い歯触りがある。原材料欄を見ると、小麦粉、砂糖、植物油脂、温泉水しか書いていない。余計なものが入っていない、シンプルな感じが舌からも伝わってくる気がする。
安中市観光機構では11店舗の磯部せんべいを食べ歩く「磯部せんべいサクサクツアー」を行うなど、今も磯部せんべいは磯部温泉の名物であり続けている。
(トラベルキャスター)
コラムニスト紹介
トラベルキャスター 津田令子氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。