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鶴雅グループ 大西雅之社長に聞く

2012年6月1日
編集部
鶴雅グループ 大西 雅之社長
鶴雅グループ 大西 雅之社長

 鶴雅グループ(大西雅之社長)は6月9日、旗艦店あかん遊久の里鶴雅と昨秋取得した旧ホテルエメラルドとを一体化し、温泉リゾートホテルとしてリニューアルオープンする。本紙のインタビューに答えた大西社長は、「新しい絵を描ける施設を取得したのは大きなチャンス。3、4泊の連泊需要にも対応できる施設を目指す」と語った。

【鈴木 克範】

≪“新装”機に滞在リゾートへ、3、4泊の連泊にも対応≫

<隣接ホテルが休館に>

 東日本大震災直後の昨年4月、グループ9館のうち2館を休館した。東北海道は東京、札幌などの大消費地から遠く、震災の影響は大きかった。同じ4月、隣接するホテルエメラルドが7月から休館すると発表された。

 温泉街の真ん中で旅館の灯りが消えると「斜陽感」がでてしまう。阿寒全体が大打撃を受ける。だが日本中、投資マインドが冷え込んでいた。外国資本が出てくる可能性もほとんどない。そんななか金融機関の仲介もあり、運営されていたカラカミ観光と休館が地域に与えるダメージについても話し合った。旅館はひと冬閉館したままだと、設備がだめになる。そうなれば再生に億単位の追加投資が必要になる。冬前に譲渡についての結論を出してもらいたいとお願いした。

<取得でチャンス得た>

 昨年の9月下旬、ホテル取得のニュースが流れると、多くの友人からは2つのことを言われた。1つは「やむを得ない選択なのだろうが、負担になるのでは」。これが大方の反応だった。一方、金融機関の見方は違っていた。「少ない資金で客室を増やすことができる。やり方次第でいい投資になる」。両面を検討したが「地域と共に繁栄する」という弊社の原点に戻り、これをチャンスと捉える決意をした。

 鶴雅はそれなりに稼働も順調で、使える場所は隅々まで生かしてきた。魅力を加える設備投資の余地がもうなかった。しかし、さまざまな国からの観光客、滞在型の旅行、1人旅など需要は多岐にわたる。とくに3、4泊して楽しめる温泉街になり、ホテルもその機能を備える。これが21世紀に生き残っていく本質と考える。新しい絵が描ける施設を得て、国際リゾートホテルを目指すスタートラインに立てた。

<羽ばたくふたつの翼>

 6月9日、館名を「あかん湖鶴雅リゾートスパ 鶴雅ウィングス」に変更し、リニューアルオープンする。取得したホテルを「東館」、あかん遊久の里鶴雅を「西館」とし、2館はアイヌ文化を紹介する回廊で結ばれる。館を鶴に見立て、ふたつの大きな翼を広げた姿を館名に表した。

 東館は1階から3階のパブリックスペースを大変革する。1階のロビーには、アイヌ文化を中心としたギャラリーミュージアムを作り、東館のロビーへ回廊でつなぐ。ここに阿寒ゆかりの作家らが手掛けた彫刻などを展示し、郷土文化を発信する。

 その奥はラウンジ空間。支笏湖(水の謌)で採用した「素足の空間」を取り入れる。食事は、定山渓(森の謌)のブッフェレストランをさらに進化させ、260席のスローフードレストランを新設する。席数が増えたことで「西館」のブッフェダイニング「天河」(220席)の混雑も緩和できる。

 スパの充実は滞在型リゾートには不可欠だ。東館の2階と3階は客室を取り壊し、「温泉スパゾーン」にする。阿寒湖を望む男女共用の岩盤浴ラウンジなど、新しいスタイルの施設が加わる。今年の冬は西館の大浴場にも手を入れたい。大きなスパゾーンが2つできるので、閑散期なら片方ずつ改装できる。

 チェックインロビーも2つに分ける。東館は団体とインバウンド客、西館は個人客を迎える。それぞれの館に客層別のロビーを設けることでゆとりと機能が充実した空間をめざす。

<阿寒の商品開発も>

 温泉街では阿寒湖アイヌシアターによるアイヌ文化の発信や、阿寒湖の世界自然遺産登録などの取り組みも始まった。

 モノづくりでは行政の力も借り、今年から2カ年かけて、アイヌ文化の商品開発をすすめたい。温泉街のホテルで提供できるアイヌ料理はそのひとつ。阿寒湖温泉でかつて当たり前だったモノづくりを再生する。アイヌ人形劇を題材にした商品や木彫りの実用品にアイヌ文化を織り込むのも一案だ。協議会を立ち上げ、阿寒湖温泉地域だけで扱うなどの条件をクリアしたものを認定し、資金支援も行っていきたい。

 「世界的にも希少な球状のマリモが生まれる阿寒湖を世界自然遺産に」という機運も高まっている。くしくも今年は、阿寒湖のマリモが国の特別天然記念物に指定されてから60年の節目を迎えた。国内広報にも力を入れたい。昔マリモが絶滅した区域では自然再生にも取り組んでいる。今は展示水槽の見学だが、数年後には自然のなかでマリモを見られる仕組みが実現できそうだ。

<航空事情改善に期待>

 6月から10月にかけて、日本航空と全日本空輸が羽田―釧路便の機材を大型化するなど、道東便の航空座席が5―7割増える。これは大きな追い風だ。今年はLCC(格安航空会社)元年とも言われる。まずは新千歳空港へ就航するが、あと2年くらい後に激変するのでは。今まで恵まれてこなかった地方便が力を取り戻すと思う。

 昨秋の道東自動車道開通は、札幌圏からのアクセス向上に加え、昼間着の千歳便を利用しても道東へ入ることができるようになった。北海道ガーデン街道やひがし北海道3つ星街道など、地域の楽しみ方や魅力を発信する商材もできてきた。阿寒も観光協会内に旅行業を立ち上げ、着地型商品に対する受け皿ができ始めた。

 さらに7月からはJRグループと旅行会社が共同で展開する「北海道デスティネーションキャンペーン」が始まる。新しい館を構えて迎える今夏の期待は大きい。

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