test

対談~Tourism For All~池山メディカルジャパン・池山 紀之社長×旅行新聞新社・石井 貞徳社長

2012年7月1日
編集部

池山紀之社長×石井貞徳社長対談

ピンクリボンのお宿ネットワーク
7月10日、設立総会 ―すべての人が旅を楽しめる環境づくりへ―

 「ピンクリボンのお宿ネットワーク」(発起人代表=畠ひで子・匠のこころ吉川屋女将)の設立総会が7月10日、開催される。同ネットワークの設立に向けて協力してきた、池山メディカルジャパンの池山紀之社長と、旅行新聞新社の石井貞徳社長が「Tourism For All」をテーマに、すべての人が等しく旅を楽しめる環境づくりについて語り合った。また、一般社団法人CSRプロジェクト理事長の桜井なおみさんからもメッセージをいただいた。
【本紙3面に関連】

旅館で温泉に入る喜びを―石井社長

観光と医療の橋渡し役に―池山社長

旅行新聞新社 石井貞徳社長
旅行新聞新社 石井貞徳社長

■石井:旅行新聞は「Tourism For All」(すべての人に等しく旅行を)をテーマに、これまで「ユニバーサルデザイン(UD)セミナー」の開催などに取り組んできました。今回設立される「ピンクリボンのお宿ネットワーク」は、社会貢献事業の一環としても、ぜひ立ち上げたいと考えていました。

 国内の乳がん患者は現在約50―60万人といわれ、若い年代にも広がっていると聞いています。そのような方々も悲観ばかりするのではなく、以前と同じように楽しく旅ができる環境づくりが我われ観光業界には不可欠です。とくに日本の文化である旅館で、温泉に入って喜びを感じられるような仕組みづくりが必要でしょう。そのためには受入側の旅館がネットワークをつくることによって情報の交換や共有化ができないかと思いました。

 設立時には、大規模旅館、中小規模旅館など40―50会員に参画いただく予定で、今後もネットワークが広がっていくことを願っています。この趣旨に賛同される企業や、団体、自治体の方々の参画も歓迎致します。

■池山:私たちは乳がん患者さんのためのオーダーメイドの人工乳房をつくっています。日々患者さんと接するなかで、多くの方が「以前のようにまた温泉旅館に行きたい」と強く望んでいることを、観光関係者には意外と知られていません。誰かが声を上げない限り、このことはわからないのです。一方、病院の医師や看護師、そして私たちも、患者さんから「どこの温泉に行ったらいいの? どの宿が私たちを受け入れてくれるの?」といつも聞かれるのですが、残念ながら、どの旅館が患者さんを心地よく受け入れていただけるのかという知識や情報がまったくありません。ですから、そのようなお宿さんのリストがあれば、病院の医師や看護師といった医療関係者は、患者さんとコミュニケーションを取るなかで紹介することができるのです。

 ただ、宿のリストをつくることに関しては、そんなに難しくはないでしょう。でも、それだけでは世の中は何も変わらないのです。できることなら、乳がんの手術を受けた多くの方々が温泉旅行を我慢している現状を広く旅館側にも知っていただいくことが大事だと思います。設備投資といったものではなく、患者さんの気持ちを「理解してあげる」という心の問題なのです。

 「ピンクリボンのお宿ネットワーク」は、観光業界と医療業界をつなぐ橋渡し役になればいいと考えております。全国の主要500病院や看護師会などと連携しながら、患者さんを受け入れる宿が全国に広がり、1人でも多くの方々が等しく温泉の旅を楽しめる社会になってほしいと思います。 

■石井:池山さんは医療業界と観光業界をつなぐさまざまな活動を行っていますね。

池山メディカルジャパン 池山紀之社長
池山メディカルジャパン
池山紀之社長

■池山:昨年のことですが、「人工乳房を装着したまま、この温泉に入ることは大丈夫ですか?」と患者さんが旅館に尋ねたそうです。旅館の方から病院に問い合わせがあり、その病院の看護師さんからお宿に「大丈夫ですよ」と返答があったそうです。医療業界では当たり前の知識でも、患者さんや旅館の方々が知らないことが多いことが分かり、シリコーン製の人工乳房が全国の温泉や温浴施設に浸けても大丈夫なことを確認する「おっぱいリレー」を10月に実施しました。温泉に行きたいのに行けずにいる多くの女性の不安解消にも取り組んでいます。

 私の妹も乳がんの手術を受けてから15年間、母親や家族と温泉旅館に行くことができませんでした。これは、私の妹に限ったことではなく、日々乳がん患者と接するなかで聞かれる声は、たとえ本人がふっきれたとしても、「肉親が自分の傷跡を見て悲しむ顔が辛い」「傷跡を見て驚かせては申し訳ない」と言うのです。

 私たちがつくる人工乳房は決して安いものではありません。私たちも一生懸命作っていますが、せいぜい年間500人程度です。現在の日本では、年間約5万人の方々が乳がんを患い、乳房を切除しているのが現状です。私たちが人工乳房を供給できているのは、わずか1%に過ぎません。残りの99%の方々は我慢しなければならない状態です。「胸をつくっていただいて、20年ぶりに温泉に行けました」との手紙をいただいたり、喜びの声をたくさん聞きます。何とか一番楽しみにされている温泉に入れるようにしてあげたいなと思っています。 

■石井:乳がん患者さんが宿に来られた時、旅館側はどういう対応をすればいいのか、実際のところわからないところも多いと思います。

■池山:乳がん患者さんだからといって特別なサービスなどはまったく必要なく、特別なプランなんかも必要ないのです。

 たとえば脱衣所でお着替えをする際に、少し照明を落とすとか、ついたてを置くとか、洗い場に仕切りがあるというだけで「すごく安心感がある」と言われます。また、ピンクリボンのステッカーやロゴマークなどが館内に掲出されているだけで、「旅館の経営者が自分たちのことを理解してくれているのだ」と温かい気持になるのだと言います。脱衣所は消防法の関係で、30ルクス以上でなければなりませんが、30ルクスというのは本当に暗いのです。ですから、8時以降は少し暗くするというのも一つのアイデアだと思います。きっと、このような取り組みに賛同していただける旅館は日本全国にたくさんあるだろうと思います。そしてこのようなつながり(ネットワーク)がどんどん広がっていけば、乳がん患者さんだけでなく、「すべての人が安心して、どの旅館にも行けるような社会になる」と思うのです。

 私たちは、全国の主要500病院の医療関係者に、乳がん患者さんのことをこれまでより少しだけ理解していただけるお宿さんを紹介することができます。

■石井:参画される旅館の規模やスタイルなどさまざまなだと思います。しかし、大切なことは、人的な部分で、どういうお声掛けをして、どう対応していくかを、「ピンクリボンのお宿ネットーワーク」では、セミナーや現地視察などを通じて、教育・啓蒙にもつなげていけたらいいなと思っています。

■池山:私たちも最初は患者さんにどう接したらいいかわからなかったのですが、旅館の女将さんや仲居さんが普段されている「おもてなし」で十分なのです。ちょっとだけ、患者さんや病気に関する知識を得てもらえば、何も特殊なことが必要ではないのです。

 患者さん本人が温泉に行けなければ家族も行くことができません。家族や近親者を含めると、その数は200万人を超えると言われています。その需要をぜひ観光業界の方々、温泉旅館の方々に掘り起こしていただきたいなと思います。

---------------------------------

CSRプロジェクト 理事長 桜井 なおみさん
CSRプロジェクト
理事長 桜井 なおみさん

「診断後も人生を楽しみたい」

CSRプロジェクト理事長 桜井 なおみさん

 ピンクリボンのお宿ネットワーク設立、おめでとうございます。

 私は、今から8年前、2004年7月に乳がんの診断を受け、右側の乳房を全摘出しました。水泳が大好き、旅行、温泉が大好きだった当時30代の私にとって、術後に見た胸部の光景は今でも忘れられません。

 看護師さんから「傷あとを見てどのように感じた?」と聞かれた私は「のっぺらぼうの砂漠のようだった」と答えました。砂漠という言葉は、当時の私の心も表現したものでした。

 フィットネスクラブを退会し、家族との温泉旅行も諦めました。胸の傷跡を、周囲の人や、年老いた親に見られたくなかったからです。

 乳房喪失。

 生命を守るためには仕方のない手段でしたし、自分からも望んだことでしたが、実際の喪失感は大きいものです。こんな私でもお風呂に入るときは今でも眼鏡をはずし、鏡に映る自分の姿をみないようにしています。

 乳がんは今や16人に1人が診断を受ける病です。診断後も変わりなく、人生を楽しめるよう、皆様の取り組みの発展に期待します。

桜井なおみ=1967年東京生まれ。一般社団法人CSRプロジェクト理事長、NPO法人HOPEプロジェクト理事長、キャンサーソリューションズ㈱代表取締役社長。2004年夏、30代でがんの診断を受ける。その後、自らのがん経験や社会経験から小児がん経験者や働き盛りのがん経験者支援の必要性を感じ、2005年から、がん経験者・家族支援活動を開始。設立1年後を契機にNPO法人化、現在に至る。07年には、東京大学医療政策人材養成講座に参加。筆頭研究者として「がん患者の就労・雇用支援に関する提言」を発表。以来、一貫して社会と医療の間を結ぶさまざまな問題に取り組む。

いいね・フォローして最新記事をチェック

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。