「提言!これからの日本観光」 “24時間観光”の展開
2018年8月25日(土) 配信
観光客とくに外国人観光客の急増により、主な観光地がにぎわいを取り戻しつつある。そのなかで、新しい観光手法が各地で展開されるようになってきた。観光といえば、昼間の行動であり、夜の観光という場合、夕食後、宿泊するまちの盛り場を歩いて飲食を楽しむ程度に過ぎなかった。
最近各地では“早朝の社寺観光”が急増している。早朝の社寺の庭園散策、社寺への参拝はもとより、座禅体験などにも大勢のとくに外国人観光客が訪れると聞く。愛知県一宮市では市民が喫茶店、食堂などで朝のコーヒータイムを楽しむ人が多いことに着目、商工会議所が幹事役となり、店舗と協議し、「一宮モーニング」と命名しまちの観光ブランドとして発信した。特色あるメニューの充実、数十店をまとめた案内宣伝パンフなどによる「一宮モーニング」〈コーヒー〉の情報発信に努めた。今では近傍の名古屋、岐阜などで宿泊する観光客が交通の便を活用、「一宮モーニング」を目当てに訪れ、まちに時ならぬにぎわいをもたらしつつある。
他方、夜は各地で“夜景観光”が観光客を楽しませている。「工場萌え」の名で室蘭、川崎、四日市など、臨界コンビナートのある都市が連携、観光船で海上からダイナミックな工場夜景を味わうようになった。また、市内の高台から、まちの夜景をみるツアーや、博物館、美術館の夜間開館も各地で見られる。
“深夜の観光”も始まった。高山のほたるいか漁などを深夜漁場で見学するツアーがそれである。いずれも、“光”をモチーフとした幻想的な光景に接することができ、気象に左右され、季節限定ではあるが、連日盛況という。
このように24時間にわたるさまざまな形の観光が普及しつつある。観光客の集中による混雑を時差観光で緩和する効果も大きい。また、対象観光地では関連する観光メニューも開発している。例えば、深夜の漁場見学後、港に戻り、魚の水揚げ、早朝のせり市を見学、その後、朝市を訪問する漁業観光の新しい流れも出来つつある。
このような新しい観光形態の推進にあたり、留意すべき点も指摘される。まず、夜間という時間帯から観光に伴う安全確保が求められる。また、観光対象の公開時間が延びること、新観光資源が開発されるがそれらの保全、保護ないし漁業などの本業が支障なく行えるような観光と観光資源保全との両立に努めなければならないことである。時差観光の実現により、ホテルなどの宿泊設備が宿泊と休息の両面に活用でき、効率的に活用できる。一方、和風旅館の収益源、いわゆる夕食に重点を置くサービスをむしろ朝食に重点をおくサービス形態に転換することなども求められよう。さらに土産物など物品販売業も営業時間の延伸が必要となるなど、新たな観光市場の展開も視野に入ることとなる。観光時間の拡大、時差観光は、観光産業にとっても新しい商機をもたらすなど、観光全般にわたる幅広い効果が期待される。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員