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東電賠償東北5県へ拡大、全旅連・佐藤会長の交渉過程レポート

2012年11月11日
編集部
東電との交渉の記録
東電との交渉の記録
 
全旅連 佐藤信幸会長
全旅連 佐藤信幸会長

 東京電力は10月18日、原発事故による観光業の風評被害賠償の対象地域について、これまでの福島・群馬・栃木・茨城の4県と、千葉県の一部市町村、山形県米沢市、宮城県丸森町に加え、青森、岩手、宮城、秋田、山形の東北5県を追加することを発表した。東北5県への拡大に向けて陣頭指揮を取り、東電と交渉を重ねてきた全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の佐藤信幸会長の、何十回にもおよぶ東電との交渉や、困難を極めた各県の調整など、賠償を勝ち取るまでの交渉の過程を追った。
【伊集院 悟】

≪東電と粘り強く交渉、ノウハウを伝え後方支援を

 2011年5月23日、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会で意見陳述。「公式の場で初めて風評被害について説明。賠償へ向けた交渉の第一歩を踏み出した」。6月29日、原子力損害賠償紛争審査会に提出するデータを集計。8月1日、観光庁へ風評被害について説明。8月5日、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針が発表され、福島・茨城・栃木・群馬の4県の賠償が認められる。 

 8月8日、全旅連の委員長会議で今期の目標を原発の風評被害への対応に決める。8月9日、観光庁へ4県だけでなく隣接県の賠償もするよう要請。9月2日、全旅連で原発事故の風評被害について委員会を開く。9月4日、民主党観光振興議員連盟会長の川内博史衆議院議員に原発事故の風評被害について詳細を説明。今後の対応について相談。

 9月5日、東京電力と直接、原発事故の賠償について協議。「これまでは観光庁を通してだったので、初めて交渉のテーブルについた」。9月13日、東京電力と協議。9月20日、山形県議会に、賠償対象に4県だけでなく山形も含めるよう国に対しての請願書を提出。9月27日、山形県観光交流局課長と県物産協会専務と県議会に請願する内容を確認。9月28日、奥村展三文部科学副大臣(当時)と輿石東民主党幹事長に東北5県と新潟・千葉・埼玉・山梨・東京・神奈川を賠償対象に含めるよう要望。

 10月7日、山形県組合の常務理事会で、福島など4県同様の賠償を要求することに理解を求める。「風評被害の賠償を求めることで、風評被害がさらに広がるのではないかという不安など、1つの県組合のなかでもさまざまな意見があり、県としてまとまるために幾つもハードルを越えなくてはならない」。10月20日、観光庁に、風評被害について隣接県も認めてもらえるよう要望。10月21日、山形県観光物産協会主催で原発風評被害の初会合を開く。「パフォーマンスだけになってしまった感あり」。

 10月31日、全旅連正副会長会議で、原発賠償要望を東北・関東の県だけにしたことに対し、北海道が指摘。地域選定の難しさを実感。「どこまで対象を広げるかは本当に難しい問題。広がれば広がるほど、まとまるのが難しいと実感した」。11月6日、鹿野道彦農林水産大臣(当時)と前田武志国土交通大臣(当時)に風評被害の損害賠償を陳情。11月8日、山形県旅館会館で第1回風評被害相談会を開く。

 11月16日、全旅連東北ブロック会議を開き、損害賠償でまとまることを決議。「県組合だけがまとまっても県議会が動かないとうまくいかない。県によって対応に温度差もあり、まとまるのが大変」。11月21日、県組合長会議で県組合として損害賠償を要求することを説明。11月25日、吉村美栄子山形県知事へ風評被害の損害賠償を陳情。

 11月29日、川内衆議院議員と民主党観光振興議員連盟提出資料の打ち合わせ。11月30日、全国生活衛生同業組合中央会と合わせて旅館組合でも民主党議連に陳情。12月6日、山形県組合で第2回風評被害相談会開く。山形県観光交流局課長と東電から6人が出席。

民主党観議連総会で風評被害を説明(11年12月)
民主党観議連総会で風評被害を説明(11年12月)

川内議員とともに文科省へ意見(11年12月)
川内議員とともに文科省へ意見(11年12月)

 12月7日、民主党観光振興議員連盟総会で中間指針の見直しを要求。東北・北海道・山梨・千葉の県庁職員が風評被害の状況をデータで説明。12月13日、自民党議連で細田博之自民党総務会長らに陳情。12月16日、山形県組合で第3回風評被害相談会開く。山形県観光交流局課長と東電から3人が出席。12月26日、第4回同相談会開く。山形県観光交流局課長と東電から3人が出席。銀山・蔵王の被害の大きさを理解してもらう。

 2012年1月7日、山形県観光交流局課長と今後の東電への対応を協議。1月8日、鹿野農水相(当時)の新年会で、鹿野農水相(当時)と吉村山形県知事に東電との交渉の現状を報告。1月11日、山形県組合で第5回風評被害相談会開く。山形県の資料をもとに東電弁護士に損害賠償を相談することが決まる。1月12日、東北ブロックで福島の理事長から、風評被害相談会に文科省と経産省の出席を要請した方がよいとのアドバイスを受ける。1月13日、鹿野農水相(当時)に損害賠償について陳情。

 1月25日、山形県組合で第6回風評被害相談会開く。東電がこれまでの資料をもとに米沢市に損害賠償を認めることを提案。山形県組合理事会で東電の提案を報告。2月3日、東電が米沢市だけに賠償するという提案を、山形県組合として受け入れる旨を吉村山形県知事に報告。2月6日、東北ブロック原発風評被害損害賠償対策委員会委員長に秋田県旅館ホテル生活衛生同業組合の松村譲裕理事長が就任。「宮城県は風評被害をあまり表にしたくないと考える人もいて積極的に動くのが難しい」。

 2月7日、文科省と経産省で2月14、16日の山形県の相談会に出席を要請。「原発の賠償にはこの2省が重要」。2月14日、山形県組合で第7回風評被害相談会開く。経産省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力損害賠償室の守本憲弘室長が出席。2月16日、山形県観光物産協会で2回目の説明会実施。文科・経産省も出席。2月18日、川内衆議院議員後援会で小沢一郎衆議院議員と鳩山由紀夫元首相、前田国交相(当時)に東電の損害賠償指針の見直しを陳情。

 3月1日、経産省の守本室長へ修学旅行の風評被害の損害賠償について相談。3月3日、舟山やすえ参議院議員から参議院決算委員会の代表質問で風評被害を取り上げるので資料がほしいとの要望を受ける。3月4日、仙峡の宿銀山荘とおおみや旅館の社長と緊急会議を開き、舟山参議院議員へ提出する資料の相談。

 3月8日、経産省から提案のあった教育旅行・ツアー旅行について、資料をどう集めるか5旅連会長に意見を聞く。3月21日、文科省に舟山参議院議員の国会代表質問に対する回答を文章で要求。4月11日、吉村山形県知事とJA山形の今田正夫会長とともに、樽床伸二幹事長代行(当時)、平野博文文部科学大臣(当時)に陳情。4月17日、輿石幹事長と経産省に陳情。4月20日、第8回風評被害相談会開く。

 5月15日、経産省が、東北の風評被害について教育旅行やパック旅行を対象にすることを提案。5月16日、山形県組合の理事会で経産省の提案を報告。「修学旅行は一部の旅館だけの賠償になるので受け入れられない」。5月19日、経産省守本室長に教育旅行やパック旅行について、「旅館では特定ができないので難しい」と意見調整。5月23日、東北ブロックで各県の取り組みについて報告。東北5県がまとまり、北・東北知事会に要望書を提出することを確認。6月7日、経産省で東電の損害賠償について協議。6月23日、経産省と山形県組合で損害賠償について協議。

 6月25日、山形県組合で第9回風評被害相談会開く。東電が東北5県に風評被害があったことを認める。「3月11日以前に予約があった18歳以下の子供を含めた旅行について賠償する」。6月28日、川内衆議院議員と舟山参議院議員に風評被害の損害賠償について要望。7月4日、東北ブロックで東電の提案に対し協議。不満の声多数。「3歳以下の子供は食事のカウントをしないし、中学生以上は大人料金なのでカウントできない」。

 7月12日、鹿野衆議院議員と舟山参議院議員、橋本清仁衆議院議員を中心に、東電が損害賠償を受け入れるよう経産相、文科相から働きかけるよう要請。7月12日、鹿野衆議院議員と東電本社会議室へ。各旅館の売上と損害額を提出。7月24日、東電本社へ県別の損害額を集計し提出。

 7月30日、東電の東北5県への賠償額が提示される。賠償額は米沢の10%。7月31日、鹿野衆議院議員や舟山参議院議員、橋本衆議院議員に、「この金額では組合員は承諾できないだろう」と話す。8月1日、全旅連東北ブロックへ東電の賠償額案を報告。「落胆の声多数」。8月7日、経産省で東電の賠償案では話にならない旨伝える。

 8月15日、東電部長と経産省で会い、賠償金額について協議。8月21日、議員会館で鹿野衆議院議員、橋本衆議院議員、舟山参議院議員に東電の賠償案を報告。8月21日、東北ブロックで東電の部長から賠償案について説明。8月22日、山形県庁で賠償案について報告。8月24日、東北ブロック長と東電賠償について協議。

 8月28日、「原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)が損害額の7割賠償」と新聞報道されるが、実際は計算方法により7割ではない。8月29日、東北5県の緊急理事長会議を招集。ADRは時間がかかるので、東電と合意することで一致。条件は逸失利益を50%とする案を提示。8月31日、山形県組合常務理事会でこれまでの東電賠償について説明。9月6日、山形県観光交流課にADRの損害賠償発表以降からの対応を説明。9月7日、経産省・文科省・東電と東北5県の理事長が集まり逸失利益50%で大筋合意。

 佐藤会長は交渉の過程を振り返り、「各県によって状況はまったく違う。なかには風評被害を訴えることで、さらに風評被害が広がるのではないかと不安に思い、損害賠償の動きにあまり積極的でない県もあり、まとまるのが大変だった」と話す。「大企業相手にこれだけの大きな交渉をするのは初めて。損害賠償を認めてもらうために、どこに行き、何をしたらよいのかという前例や道筋もなかったので、何度も何度も足を運び、同じことを何度もしてきた。東電や支援いただいている議員の方に呼ばれれば、自身の予定は白紙にし、何度も何度も顔を合わせて協議してきた。粘り強く取り組んだのがこの結果につながったのではないかと思う。今回は川内先生をはじめ、熱心に取り組んでいただいた議員の方々のご協力がとても大きな力となり、大変感謝している」とこれまでを語った。

 現在、新潟県や箱根町(神奈川県)が賠償を認定してもらうために、積極的に動いている。「ここから先に賠償対象を拡大しようとするなら、全旅連や各ブロックの大きい単位ではやれることに限界が出てしまい、調整も難航してしまうので、県単位で動くのがベスト。賠償対象に認定してもらうために、どういう資料を集め、どこを巻き込み、どこにどう働きかけていけばよいのか、わからないことがあれば聞いてほしい。1度経験しているので、そのノウハウを伝えることはできる。他人任せにはしない、やる気のある地域にはどんどん情報提供をして、後方支援をしていきたい。あきらめなければ可能性はある」とエールを送った。

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