test

「登録有形文化財 浪漫の宿めぐり(89)」(新潟県出雲崎町) 季節宿 國安 ≪愛犬と泊まれる茅葺屋根の古民家≫

2018年9月9日(日)配信 

旅館らしくない趣きが客を引き付ける。茅葺屋根は手入れが欠かせない

周囲に水田の続く道から急坂を登ると、杉木立に囲まれた茅葺屋根の一軒家があった。季節宿國安は、古い農家のたたずまいであった。宿泊客が「田舎のおばあちゃんの家みたい」と感想を漏らすこともあるそうだ。

 宿の開業は2002年だが、建物は1884(明治17)年の建築。農家の住宅だったものを、現在の主人である國安誠人さんが入手した。主屋は間口約14・5㍍、奥行約10㍍あり、寄棟造。それに台所などの水回りや作業室が付随し、正面に玄関が付けられている。茅葺屋根は主屋をすっぽりと覆い、厚みのある茅は深いところで1・8㍍もあるという。主屋のほか前面に建つ土蔵も登録有形文化財で、別棟で居室でもある物置は出雲崎町の有形文化財になっている。

 玄関を入るとレンガ敷きの土間が広がり、天井には煤けた茅葺の高い小屋組みが見える。土間の奥にある18畳分の板の間が居間。桐の古箪笥や古時計、呉須の磁器椀などがあり、クラシックムードを醸し出す。

 建物の特徴がもっとも感じられるのは、食事処として使われている広間だろう。15畳の広さに囲炉裏が切られ、太い梁が見える天井は高さが約5㍍。國安さんも第一にこの部屋の雰囲気が気に入ったという。幅が52㌢もある長押の上部に天井まで白壁が延び、白壁の補強材である「差し」と呼ぶ横桟はデザイン上も美しい。高い天井を支える6本の大黒柱は、一辺が27㌢もある角柱だ。つやのある板戸などの建具は建築時からのものといわれ、重ねた年月が感じられていい。当初の持ち主が建具屋だったという話に納得する。

 客室はカギ型に広間を囲むように3室あるが、「奥の2間」と呼ぶ2室はふすま仕切りのため1客で利用する。「2間」ともみごとな床の間と床脇があり、東寄りの1室は10畳で、天井高が4㍍ほど。幅一間半(約2・7㍍)の板床に磨き丸太の床柱がついた数寄屋造りだ。もう1室は板の間に畳を置いてあるが、組子の書院障子がはめ込まれた書院造りになっている。 

 主人の國安さんは東京生まれで書籍などの編集業務に携わっていたが、自然を求めて神奈川県の相模湖付近に転居。その後に各地で古民家を探し、現在の建物を購入した。旅館業を始めたのは、以前から自宅に友人を泊めるなど「宿のようなこと」をしていたから。料理屋で働いた経験もあり、料理を作るのに抵抗もない。日本酒、焼酎、自家製果実酒などもそろえ、「泊まれる居酒屋」と笑う。冬以外に半年ほど開業する季節営業だ。

 そして大きな犬が好きなため、大型犬と一緒に泊まれる宿にした。ただし、トイレトレーニングなどしつけのされていることが条件。広間や台所など犬が入室できない場所もある。

 さまざまな酒と個性的な食があり、愛犬と泊まれる茅葺の古民家。他に例を見ない文化財の宿である。

 

コラムニスト紹介

旅のルポライター 土井 正和氏

旅のルポライター。全国各地を取材し、フリーで旅の雑誌や新聞、旅行図書などに執筆活動をする。温泉、町並み、食べもの、山歩きといった旅全般を紹介するが、とくに現代日本を作る力となった「近代化遺産」や、それらを保全した「登録有形文化財」に関心が強い。著書に「温泉名山1日トレッキング」ほか。

 

いいね・フォローして最新記事をチェック

コメント受付中
この記事への意見や感想をどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。