「津田令子のにっぽん風土記(41)」期間限定の宿で集落の日常を体験~高知県・日高村編 ~
2018年9月15日(土)配信
今年7月、高知県高岡郡日高村の江尻集落、仁淀川のほとりでスタートしたプロジェクトが「POP UP INN(ポップアップイン)」だ。集落内の空き地にテントなどの宿泊施設を期間限定で設置。宿泊者はウナギとり、お茶園での収穫など村民のふだんの暮らしが学べる「村民弟子入り」体験にも参加可能だ。「暮らしキャンプ」をテーマに、集落の日常を体験することを目指している。
プロジェクトリーダーの小野かおりさんは、約1年半前から日高村と東京の2拠点居住をしている。東京の広告制作会社に勤めていたが、東日本大震災後、学習支援や子ども食堂などのボランティアを始めた。そんななか、日高村に素晴らしい活動があると聞き、訪れて滞在するうち、その活動をするNPO法人日高わのわ会や、村の方々の人柄、自然などに魅せられたという。現在は村の地域おこし協力隊となり、日高わのわ会の広報や特産品のPRなどをしながら、合間に広告ディレクターの仕事も続けている。「都会だけだと価値観が固まってしまう。田舎との2拠点だと体も心も健やかになれます」と語る表情は生き生きとしている。
多様な魅力があり、高知市内から約40分という優れた利便性もある。ポテンシャルの高い日高村に他の人も「行きつけられる」よう、宿泊施設があるといいと考え、来夏にゲストハウスをオープンする予定だ。
「知らないことで不安感が増す」と、まずは期間限定でテント式の宿を開き、そのようすを地元の方に見せたいと小野さんは考えた。集落の空き地の活用にもなる。東京で通っていたゲストハウス開業講座で仲間もできていた。運営は自分が所属する日高わのわ会に協力を得た。地域の人との間に入ってもらうことで、土地を借り、近隣の人の理解を得ることに成功。テントなど一部備品の購入には村の協力も得られた。また「ここでしかできないことを」と、体験のプログラムも整えた。
ゲストを受け入れ始めると「釣りをしても釣れるかわからないなど、飾らない日常を体験すると村民と仲良くなれます」。体験を提供する村民もゲストから「楽しかった」「うらやましい」などの声を聞き「自分たちの生活が素敵なんだと感じて、活気づいている」と小野さん。
当初は9月末までの予定だったが、期間延長を決めた(詳しくはホームページ参照)。「風通しのいい地域を目指したいです。色々な価値観の人に来ていただきたいですね」。
コラムニスト紹介
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。