「女将のこえ214」渡邉 栄子さん、姫宿 花かざし(愛知県西浦温泉)
2018年9月25日(火) 配信
□女性客だけの姫宿
太平洋を見下ろす「姫宿 花かざし」は、ありそうでない女性限定の宿だ。筆者が訪ねた9月の平日、母娘や20―30代らしきグループが目立った。カラフルな家具、ドレスや打ち掛けを着てお姫さま気分を味わえる写真館、彩美しい料理など、インスタ映えも考慮されている。
同館は、「記念日の宿」を掲げ18旅館を展開するSPA&RESORT海栄RYOKANSの一つ。経営難の旅館に再建を託されたのだ。
夫で会長の幸一氏は、旅館や金融機関の依頼で再建を引き受け、栄子さんと長男と次男(社長と副社長)が経営を担うスタイル。昨年は、大学時代から30年勤める社員がグループ旅館の社長に就任した。地域のために同業間の価格競争を避け、前オーナーと社員には極力残ってもらうのが信条だという。
「花かざしのオープンに際しては、何か特徴がほしいと考えたとき、間口は狭くなりますが、12歳以上の女性専用を思いつきました。グループ旅館・源氏香の女性フロアや女性旅の増加、都心の女性専用車両などが浮かんで」と、発案者の栄子さんは語る。
かつては、女性だけの旅行を非難する時代もあった。女性一人客が敬遠された時代もあった(今も残るが)。それを振り返ると、同じ女性として感慨深いものがある。
「企業で活躍する女性の褒賞としても使っていただけたらうれしいです。当社も、5年勤めた人は好きな旅館に行けるんですよ」
栄子さんは、百貨店の広報マンと結婚したはずだった。だが、義母が始めた旅館を手伝ったのをきっかけに、夫婦は宿泊業の道へ。
「私もそうですが、2人の息子も生活は激変しました。あれから37年。知らない世界だったからこそ、やって来られたのだと思います」
元来、喋らない女性だったそうだが仕事に鍛えられた。「同級生に会うと、どうなっちゃったのってびっくりされます(笑)」
グループに新しい宿ができるたび、今度こそ着物を着て女将さんらしい感じになれるかしらと淡い期待を抱くが、やはり裏方に納まるのだと笑う。
「いくら接客係の子たちに『笑顔でね』と言っても、料理が出て来なかったり、布団が敷かれていなければ笑顔は出せませんよね。裏で支える役目が必要になるんです」
花かざしが新生オープンして3年目。軌道に乗せるのが当面の目標だという。「たくさんの女性のお客さまにのびのび楽しんでいただきたいですね。そろそろゆっくりしたいけれど、しばらくはがんばります」。
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住所:愛知県蒲郡市西浦町大山17-1▽電話:0433-57-5721▽客室数:17室(60人収容)、一人利用可▽創業:2016(平成28)年リニューアルオープン▽料金:1泊2食付23,000円~(税入湯税別)▽温泉:アルカリ性単純泉▽蒲郡の女将会「こはぜの会」の会長も務める。毎月第2水曜は11旅館が持ち周りでスイーツイベント開催。
コラムニスト紹介
ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。