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評価制度導入へ、有識者13人が観光産業を激論(観光立国推進ラウンドテーブル)

2013年2月21日
編集部
有識者13人が議論
有識者13人が議論

 観光庁が主催する観光立国推進ラウンドテーブルが1月29日に開かれ、「観光産業の今後について」をテーマに、宿泊業や旅行業のトップ、まちづくり従事者や大学教授など幅広い分野の有識者がテーブルを囲んだ。(1)個々の事業者の収益力アップ(2)国際競争力の強化(3)人材育成――の3点に的を絞り議論。なかでも評価制度の導入について多くの意見があがった。宿泊施設業界の一部からは懸念の声も聞こえるが、今後、観光庁を中心に評価制度の導入へ向け動き出しそうだ。議論の一部を紹介する。

【伊集院 悟】

200人収容の会場は満席となった
200人収容の会場は満席となった

 モデレーターを務めた首都大学東京都市環境学研究科観光科学域特任准教授の矢ケ崎紀子氏は議論のポイントを(1)個々の事業者の収益力アップ(2)国際競争力の強化(3)人材育成――の3点に絞り、進行した。

 「個々の事業者の収益力アップ」では、北海道観光振興機構の副会長も務める鶴雅グループ代表取締役社長の大西雅之氏が、「利益を生み報酬を社員に払える企業水準にしなくてはいけない」と問題提起。ネットで周りの宿の価格を見て値段を下げあっている宿泊業界の「進み過ぎた低価格競争」について指摘した。また、地域が疲弊し、新しい観光地を目指す財源がない現状を報告。「街に余力がなくなっており、財源を見直す必要がある」と語り、阿寒湖で入湯税を上げて、それを地域で環境整備などに使うシステムを検討していることを紹介した。

 ホテル事業を手掛ける森観光トラスト代表取締役社長の伊達美和子氏は税制の問題も指摘し、「宿泊業は装置産業なので当然投資が必要だが、その体力がない。税制の補助制度なども必要ではないか」と語った。

 観光産業政策検討会で座長を務める一橋大学大学院商学研究科教授の山内弘隆氏は日本航空(JAL)の好業績を例に、製造業の仕組みを観光業に取り込む重要性を提起。「日本の製造業の管理体制は世界でも大変優れている。生産効率や管理システムなどをいかに観光業に組み込めるかが次のステップだ」と語った。

 4月に全旅連青年部第21代部長に就任する「ほほえみの宿 滝の湯」専務の山口敦史氏は旅館業法の問題点を指摘し、「学校などの公共施設から100メートル以内に旅館があってはいけないと決められている。旅館業が公序良俗に反するという考えはおかしすぎるのではないか」と語った。

 日本旅行業協会会長でワールド航空サービス代表取締役社長の菊間潤吾氏は、世界の観光業界の中で日本が「ユニークカントリー」と揶揄されている現状を指摘。「取消料は60日前からが世界スタンダードだが、日本は30日前からのため海外の宿泊・観光施設をパッケージに組み込みにくく、海外に対し取消料を30日前からにしてくれないかとお願いしているのが現状だ。世界のスタンダードからズレすぎている」と語った。また、インバウンドにおいては、登録制度の必要性を訴え、「法規制がないため、訪日事業は誰がやってもいい状況になっている。外国人が来日するのに、日本にいる親戚が代理店を通さずにすべて手配するようなことがOKとされる状態。ランドオペレーターの認証制度を作り、正規のバス会社やガイドを使って高品質の旅行を提供する必要がある」と語った。

 また、事業者の収益力アップの議論のなかでは、評価制度導入について多くの意見が出た。評価制度導入へ口火を切ったのは、群馬県みなかみ町でキャニオニングツアーなどを手掛けるキャニオンズ代表のハリス・マイケル・ジョン氏。「顧客の満足度を上げるため、評価制度があった方がよい。ベンチマークで質が上がる」と語った。

 大西氏も「日本人は格付けされたものを好む割に、自分が格付けされるのを嫌う傾向がある。皆が同じ基準で5つ星を目指すのではなく、多くの座標軸のなかで評価されることで、よりその宿の特徴や強みが浮き彫りになってくるのでは」と評価制度導入の利点を強調した。

 観光庁長官の井手憲文氏も「外からの評価は大切。評価されることから逃げずに、自信を持った経営をすることが重要ではないか」と肯定意見。

 山内氏は東京都内のタクシー業界でランク分け評価制度が導入されたことを例にあげ、「ランクが低かった事業者も上を目指し、よりサービスに力を入れるようになった」と紹介した。

 評価軸について早稲田大学商学学術院教授の恩藏直人氏も、朝日新聞の企業イメージ調査で、「一流」の項目では「TOYOTA」などが上位となったが、「身近」の項目では「キューピー」がトップとなったことを紹介し、「ある評価軸では低くても、別の評価軸では高いなど、評価の軸はたくさんあれば差別化や強みにつながる。評価軸の立て方も重要」と語った。

 伊達氏は評価制度のあり方について「すでにネット上で、社会が口コミで評価をしているので、いまさら評価されることに躊躇することはないのではないか。ただ、ミシュランなどのマーケット評価に顧客が付いてくる現状もあるので、評価制度を導入する際には、公的(社会)評価とマーケット評価のすみ分けが必要」と指摘した。

 国際競争力強化の議論では「マーケティング」や「チーム力」などのキーワードがあがり、ユナイテッドツアーズ代表取締役社長の越智良典氏は韓国と比較し、「観光庁以外にも外務省や文部科学省の海外交流事業、経済産業省のCOOL JAPAN事業、在外公館の事業などそれぞれがさまざまな動きをしている。オールジャパンという標語はいいが、実際にうまく機能していない」と指摘した。

 地域活性・観光振興のコンサルティングに多数関わった日田市観光協会事務局長の佐藤真一氏は「成功事例が見えない」と指摘。観光庁が進める観光圏事業を批判し、「全国47カ所に予算を分散するのではなく、予算の選択と集中で、3、4カ所に一点集中し、成功モデル・成功理論を作ってほしい」と意見した。

 人材育成の分野では、ドン・キホーテグループ全体のインバウンドと地域連携事業を手掛ける社長室ゼネラルマネージャーの中村好明氏が学校教育の重要性を語り「子供に旅の楽しさや旅文化を教え、将来観光業界に就きたいと思わせなくてはいけない。『外貨を稼ぐための観光業』をしっかりと認識し、高度な観光業を学ぶことも大切」と語った。

 恩藏氏は、「大学に観光講座を設けるだけでなく、観光業界が大学・教育に目を向けて、単なるインターンシップではなく、もっと踏み込んだ中身のあるものを作る必要がある」と一歩進んだ産学連携の重要性を語った。

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