“コード”を業界全体に、旅行会社が取り組むべきCSR
JATA CSRセミナー
日本旅行業協会(JATA)は3月14日、東京都港区のユニセフハウスで、「持続的な企業発展のために旅行会社が取り組むべきCSRとは」をテーマにセミナーを開いた。国際連合児童基金(ユニセフ)などが観光地などでの子供買春を根絶するために推進する、旅行会社の取り組み「コードプロジェクト」に関連する講演などを実施し、実態を学んだ。日本では2005年からコードを開始し、現在はJATA会員を中心に約90社が参加しているが、今後、JATAは会員をはじめ、業界全体に取り組みを広げていきたい考えだ。
【飯塚 小牧】
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冒頭、JATAの米谷寛美総合企画部長(開催時役職)はコードの経緯などを説明。それによると、国際的な取り組みの始まりは、1996年にストックホルムで開かれた旅行・観光での性的搾取から子供を保護するための行動規範に関する国際会議。そのなかで、悪の根源はインターネットと旅行会社だという意見や、その最たる国は日本だという声もあったという。報告を受けたJATAは反論していたが、それだけではなく、積極的に根絶に向けた取り組みを行い、企業的責任を果たしたうえで、世界の観光の健全な発展に資するべきだと判断。2005年に世界のコード機関と合意書を取り交わし、日本でコードの取り組みを開始した。
米谷部長は「世界的に子供の人身売買や児童ポルノの事件・ニュースは後を絶たない。海外の調査で日本は子供を人身売買から守る法的な枠組みや政策、国際基準が不十分で意識も低いと指摘されている」と社会全体の問題点を示した。旅行業にとっては旅先で顧客が知らない間に犯罪に関与するケースもあり、「無関心では企業イメージのダウンや損失につながる可能性がある」と言及。「ボランティア色の強かったCSRから一歩踏み込んだ活動だが、率先して旅行業全体で取り組み、子供の悲劇を少しでも減らしたい」と意気込みを語った。
セミナーは3人の講師が登壇し、現状や取り組みについて講演した。1人目の講師は警察庁生活安全局少年課児童ポルノ対策官の原幸太郎氏。原氏は「児童ポルノ」に関する検挙件数が2002年の189件から10年後の2012年には1596件に増加し、そのうちインターネット関連事件が84・5%を占める現状などを報告。被害児童の約半数が13歳以下の低年齢児童で、その8割は強姦・強制わいせつのうえに画像を撮影されている悲惨な実態を示し、「ネットのなかの画像はコピーが世界中に渡ってしまうこともあり回収が困難で、長年にわたり精神的苦痛が続く」と語った。
児童ポルノの取り締まりにおける日本の課題は単純所持の処罰化だ。国会でも度々議論されているが、現行の法律では個人的な所持は処罰の対象とはならない。一方、欧米諸国では単純所持も処罰化しているため、「例えば海外でツアー顧客のなかに所持している人がいた場合、旅行会社の皆さんの関与も確認される場合がある。海外はコンプライアンスを重視するので、『顧客の手荷物検査はできない』と訴えても、それが重なれば評価が下がることは否定できない」と注意を促した。
2人目の講師、ヤフー政策企画本部ネットセーフティ企画室室長の吉田奨氏は青少年が安心して利用できるインターネット環境づくりに向けた取り組みを紹介。同社は広告やコミック、動画、オークションなどそれぞれのサービスで適正化と悪用防止対策を実施している。業界全体では、主要なプロバイダー企業やモバイル企業など87社が加盟する「インターネットコンテンツセーフティ協会」で取り組みを推進。吉田氏が事務局長を務める同協会は、児童ポルノ画像が掲載されたサイトのアドレスリスト作成・管理や提供などを行い、インターネット上の児童ポルノ画像の流通や閲覧防止対策を国などと連携して行っている。
吉田氏はこのような取り組みに力を入れる理由について「日本でサービスを提供している以上、『児童ポルノ大国』という批判に対し、仮に国内サーバーにデータが蔵置されているのであれば地道に消すなど世界に誇れる対策で汚名を返上したい。また、ネットに対する批判は長期的に見てビジネスを阻害する要因になると考えている。CSRの観点でも、例えば植林よりも、本業領域で我われにしかできないことのほうが優先されるのではないか」と述べた。今後についても「業界内では積極的でないところもあるが、引きずってでも参画してもらわないと、ネット全体が批判を受ける。業界のリーディングカンパニーとして、積極的にイニシアティブを取っていく」と強調した。
最後は、日本ユニセフ協会広報・アドボカシー推進室アドボカシー担当の佐伯摩耶氏が、世界の企業が子供の権利をどのように考え、企業活動を行っているかを語った。
佐伯氏はコードの主旨を「加害者や特定の誰かを責めるものではない。大切なのはどうやって子供を守るのか。いくらでも止める機会はあるはずだ」と前置きしたうえで、コードの取り組みが進んでいるドイツの推進体制を紹介。政府をあげて取り組んでいるドイツは、3つの省庁が協力してバックアップしているほか、民間でも旅行会社の約80%がコードに参加している。その背景には国民の意識の高さがあり、顧客が旅行会社の窓口で「あなたの会社は、コードをしているか」と尋ねるほどだという。
そのなかでも、ドイツの旅行会社で世界企業のTUIは熱心で、担当者のショーン・オーウェンズ氏が自社内の年次報告を世界中から集め、編集して世界のコード機関に提出している。「彼になぜそこまでするかを聞くと『私たちの大切なお客様が訪れようとする国や地域が“子供売春地”として有名だったら私たちが困る。私は世界の“風景”を変えたい』と答えが返ってきた」と印象的なエピソードを語った。
講演を受け、米谷部長は「現状、広がりが見えていないので、活動をリセットし、日本の旅行業全体で契約を結び活動を進めたい。少なくともJATAの会員には意識を持ってもらい、参加してもらうように呼び掛けていく。厳しい情勢で意識が向かないという現実も分かるが、将来を考えれば積極的に推進するべきだ」と力を込めた。