「津田令子のにっぽん風土記(42)」村民らが盛り上げる「愛妻家の聖地」~群馬県・嬬恋村編~
2018年10月14日(日)配信
「嬬恋村のことを、職員の私よりも考えている人がたくさんいるんです」。群馬県・嬬恋村観光商工課の黒岩秀明さんはそう話す。嬬恋村で生まれ、入庁して20年目だが、今年4月に同課に異動して多くの人に会い、驚いたという。
例えば村では2006年から「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ(キャベチュー)」というイベントが開かれているが、これを始めたのは首都圏在住者が中心の日本愛妻家協会だ。ヤマトタケルノミコトがこの地で亡き妻をしのび「ああ、わが妻よ」と嘆いた伝説から考案され、現在は村などとの共催。13回目となる今年9月にも「愛妻の丘」で35人が感謝、永遠の愛、プロポーズなどを叫んだ。また同時開催された「嬬恋ハートきゃべつ畑プロジェクト」は、村内の若手農業青年有志グループ「BRASSICA」を中心とする実行委員会の主催だ。ハート形に植えられた約600株のキャベツを参加者と収穫した。
盛り上がりをこの日だけにとどめないよう、15年からは「妻との時間をつくる旅」をコンセプトに観光プロモーションを始め、スタンプウォークやツアーなどを実施してきた。かわいいマップやホームページは「デザイナーの方が村民の方と話しながら、熱意を込めて作ってくださっています」と黒岩さん。
村の新しいお土産も生まれている。キャベツ農家の松本もとみさんは、16年に土産物ブランド「妻の手しごと」を立ち上げ「嬬恋キャベツ酢」を開発。昨年はこの酢を使った炭酸飲料「愛妻ダー」も誕生。嬬恋高原ブルワリーでは「キャベチュー」の会場に大麦を置いて愛の叫びを「聞かせ」、それを使用した「叫ばれビール」を今年発売した。これまでもそれぞれ活動していたが「愛妻家の聖地をテーマに、統一したブランディングができるようになってきた」と黒岩さんは話す。今後、こうした村民の活躍をホームページで詳しく紹介する予定だ。
今年4月に観光商工課は村観光協会の2階に移転し、協会と一体になった取り組みがしやすくなった。11月22日「いい夫婦の日」には愛妻の丘で星を見るイベントを開催する。さらに来年1月31日「愛妻の日」には、スノーシューを履いて雪原を歩き、星空を眺め、万座温泉に泊まるツアーを行う。
「浅間高原シャクナゲ園は、周辺の紅葉がよく見える場所です。また、ぐんま県境稜線トレイルが今年8月に開通しました。ぜひ多くの方にお越しいただきたいです」と話す。
コラムニスト紹介
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。