JNTO ムスリムセミナー
旅行動向と受入を助言
日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)は5月17日、品川プリンスホテル(東京都)でムスリム・ツーリズム・セミナーを開いた。イスラーム教と「ハラールフード」についての講演や、JNTOのムスリム層旅行動向調査概要による東南アジアからのムスリム訪日旅行動向、マレーシアとインドネシアの現地旅行会社による訪日旅行者の対応と日本への要望などが語られた。
【伊集院 悟】
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ハラール食材の輸入販売や製造を行う株式会社二宮の二宮伸介代表が、イスラーム教やハラール、ハラール食品について講演(詳しくは1、3面参照)。
続いて、JNTOの小堀守海外マーケティング部長が東南アジアからのムスリム訪日旅行動向について説明した。JNTOは12年12月―13年3月に、ASEAN諸国のなかでムスリム人口の多いインドネシア、マレーシアの現地業界団体や旅行会社(インドネシア25社、マレーシア24社)などを訪問し、海外旅行動向や競合国の旅行動向を調査している。
調査結果によると、インドネシアの訪日旅行のハイシーズンは、断食(ラマダン)明けの休暇「レバラン休暇」と年末年始で、レバラン休暇は毎年11日ずつ早まっていき、13年は8月8日からとなる。日本や韓国への旅行は12月が人気で、企業のインセンティブツアーは、1―3月とレバラン休暇後からクリスマス前までが多い。家族旅行が圧倒的に多く、フルパッケージツアーへの参加が一般的という。
訪日ツアーは関西国際空港(大阪府)着、成田国際空港(千葉県)発の7日間が最もスタンダードで、USJ、心斎橋、京都(清水寺、桃源坂、千年坂、二年坂、平安神宮)、浜松、箱根、富士山、東京(観光は上野、浅草、皇居、ショッピングは銀座、新宿)、東京ディズニーリゾートを回る。
他国のPR状況は、韓国が最も積極的で、四季を押し出したPRが多い。日本のインバウンド事業者への期待では、旅行会社への教育研修や、「日本」をPRする広告やイベントの実施、オプショナルツアーの充実、ツアー価格の引き下げ、サイクリングやファッションなどのSIT(Special Interest Tour)の造成、ムスリムニーズへの対応と情報提供、インドネシア語ガイドの手配などをあげた。
マレーシアも、家族旅行が多くフルパッケージツアーへの参加が一般的。旅行シーズンのピークは6―7月、11―12月のスクールホリデイ期間で、ムスリムの旅行も6、11、12月が多い。訪日旅行は桜のシーズンと12月が人気。台湾や韓国と比べて訪日は高額な印象があり、ピーク時を避けた安い料金時期の需要もあるという。
訪問地は東京、富士山、大阪が主流。食事対応は手配できる場合はハラールフードで、それ以外はシーフード、焼き魚、天ぷら、懐石料理などが多い。
日本のインバウンド事業者への期待では、ムスリムニーズへの理解促進と対応の強化、プロモーション強化、ツアー価格の低下、旅行会社への支援などをあげた。
続いて、マレーシアとインドネシアの現地旅行会社が訪日旅行者の対応と動向を報告。マレーシアの旅行会社アップルバケーションズの担当者によると、同社取り扱いのなかで東アジアの人気は(1)中国(2)韓国(3)日本――の順という。中国はとくに、ハラールフードがそろう北京が人気。韓国と日本については「飛行機移動10時間以内で雪を見られるのは、日本と韓国だけ」と魅力を語り、両国の差については「韓国の積極的なPRと円高の影響」と分析した。また、浴衣を着て日本料理を食べるのが人気という。食事については「旅行者それぞれイスラーム教信仰の厳格さが異なり、それぞれに対応しなくてはいけない」とし、「旅行先での現場対応は難しいので、出発前の事前打ち合わせが大切」と強調した。
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インドネシアの旅行会社ジャランツアーの担当者は、「香辛料がきついので、アラビア風料理や、機内食のカレーを好まない人が多い」とインドネシアのムスリム旅行者の特徴を説明。日本の業者への要望と期待として、(1)礼拝の場所の確保(2)天井にキブラを指す表示をつけること(3)ムスリム団体から認証を受けた適切なハラール食品の提供――などをあげた。また、「礼拝前のお清めで足を洗うが、日本では足を洗面台に上げるのは行儀の悪いこと。床を濡らしてしまう可能性もあるので、何か解決策を考えてもらえるとありがたい」とリクエスト。「ムスリムが尊重されていると感じられ、安心して旅行ができるようにしてほしい」と締めた。