旅行業法が現実と乖離、海外OTAとの競合も議論(第1回旅行産業研究会)
観光庁は今秋、旅行産業研究会を立ち上げた。同研究会は、昨年観光産業政策検討会で出された提言を受けたもので、今後の旅行産業の在り方や現行諸制度の見直しの方向性、旅行業の組織的な安全マネジメントの構築などについて、議論・研究していく。9月30日に行われた第1回では論点を絞らずに幅広く問題を提起。海外OTA(オンライン・トラベル・エージェンシー)との競合、取消料や標準旅行業約款、特別補償規定、旅程保証制度などが定められている旅行業法の見直しなどについて意見が上がった。
【伊集院 悟】
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同研究会立ち上げにあたり、観光産業課が担う事務局から(1)インターネット取引の増大(2)観光振興国の台頭(3)旅行者のニーズの多様化(4)旅行に関する安全確保の必要性――の4つの論点を提示。初回は論点を絞らずに幅広く問題を提起した。
日本の旅行市場のオンライン化率は2011年で29%。素材別では、航空が販売額の43%、宿泊施設が販売額の29%と、オンライン化率が高い。航空は旅行流通サイトよりもサプライヤー直販サイトでの販売が多く、宿泊施設はサプライヤー直販サイトよりも旅行流通サイトでの販売が多い。米国では店舗を利用した旧来の運営の旅行会社はビジネス分野に特化したBTM(ビジネス・トラベル・マネジメント)モデルにすでに移行し、一般消費者向けはオンライン旅行会社がマーケットを占有している。
同研究会委員からは、海外OTAとの競合も問題提起。日本の旅行予約サイトは手配旅行の形をとる手数料ビジネスのため、利益は少ないが、海外OTAサイトは企画旅行の形態で仕入れをし、自社で値付けをするマークアップ方式なのでマージンが高い。日本での手配旅行は手数料が低く手続きが煩雑なため「現状のままでは、手配という素材流通は海外OTAが大半を担うことになるかもしれない」と危惧。
また、手配旅行では制約が多いため、募集型企画旅行として造成する場合もあるが、募集型企画旅行での販売には旅行業法で定める特別補償や旅程保証などの各種補償によりコストが上がり、料金も上がる。消費者はホテル商品単品へのニーズも高く、各種補償が結果的に消費者の利益になっているのか疑問を呈す声も挙がった。
旅行業法に関しては取消料についての意見も多く挙がった。海外では原則、取引ごとに個別に取消料について規定されるが、日本では現状、標準旅行業約款で一律に規定されており、「世界の最も高い価値のある観光素材に手が出せない」との厳しい指摘もあった。
旅行業法は、1952年に「旅行あっ旋業法」として制定され改正を繰り返してきた。店頭販売や団体旅行がメインの時代に対応した内容で、「旅行業法が現実と乖離し、現状に即していない」という意見も多数みられた。標準旅行業約款や、旅程保証制度、特別補償規定などが現状に即しているのか検証が必要で、「多様なニーズに合わせた自由な営業や、自由なツアー企画ができず、日本の旅行業界は世界のなかでガラパゴス化している」との指摘も挙がった。
また、安全面に関しても、「旅行者の自己責任が問われる場合もあるのでは」と、過度の消費者保護への懸念も出た。
米国などでみられる、空き部屋を短期間貸したい人と、旅行などで宿泊場所を借りたい人をマッチングする「空き部屋マッチング旅行サービス」へも意見が挙がったが、日本では不動産賃貸取引の範疇になることや、旅館業法との兼ね合いから、難しい現実が指摘されている。
10月30日には第2回研究会を実施。1回目の議論を受け、インターネット取引の普及や海外OTAとの競争を踏まえた旅行業制度の在り方などをテーマに議論された。詳細は次号以降で紹介予定。