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旅行で生産者にファンを 畑のレストランで福島応援(孫の手トラベル)

2018年11月23日
営業部:鈴木 克範

2018年11月23日(金)配信

一日限りのプライベートレストラン

 今年5月、福島県須賀川市にある「おざわ農園」のイチゴ畑の真ん中に、ダイニングテーブルが突如現れた。席についた人たちの前には、「苺とヨーグルトのスープ」が運ばれる。1日限りのプライベートレストラン「Food Camp!(フードキャンプ)」の始まりだ。テーブルに並ぶ、ナイフやフォーク、食器はすべてホテルのレストランで使われているもの。イチゴを豚肉で包んだメイン料理にナイフを入れた参加者からは、驚きの歓声が上がった。孫の手トラベル(山口松之進社長、郡山市)が企画するフードキャンプでは、毎回このような光景が見られるという。

「おざわ農園完熟苺尽くしツアー」(今年5月)

人結ぶ企画の発芽

 震災後、福島県内では食の風評被害を払しょくする取り組みが多数行われている。食大学というWeb上の仮想大学もその1つ。県内の優れた農産物や生産者の情報を発信するほか、直接購入できる場として郡山市内で開成マルシェを開いてきた。この取り組みにアル・ケッチァーノ(山形県鶴岡市)の奥田政行シェフが加わり、2014年3月には復興レストラン「Fuku che cciano(福ケッチァーノ)」も開業した。

 山口社長も一連の取り組みを応援するなか、「顔が見えるホンモノの生産者は、信頼回復も早く、震災前以上に消費者に支持されている」と実感した。そこに震災前、鶴岡市内を訪ねた経験がつながった。

 日本調理技術専門学校(日調、郡山市)の社会人講座で鶴岡市を訪問。奥田シェフとともに農家を訪ね生産者の話を聞いた。その後アル・ケッチァーノで食べた野菜のおいしさが忘れられない。「モノがコトに変わった瞬間だった」(山口社長)と振り返る。

 「旅行というカタチで生産者にファンをつけられないか」。生産者と消費者とを結びつける、フードキャンプの原点となるアイデアが発芽した。 

2種類の試行錯誤

 北海道で行われていた「畑でレストラン」という企画を、郡山でも開けたら。そう生産者と話していたとき、偶然中古のキッチンカーを見つけた。「買ってから考えよう」(山口社長)と即座に購入。今から3年ほど前のことだ。

 日調の助言も受け、改造した2㌧車は、電気だけでなくガスも使える設備、100㍑の水タンクも備える。キッチンカー改め「フードカート」の誕生だ。これ1台で何もない場所でも調理できるようになった。

 ただ営業許可は煩雑を極めた。フードカートは食品衛生法上、移動販売車に区分され、通常「単品」で調理の許可が下りる。コース料理を出すという取り組みに「前例がない」という壁が立ちはだかった。さらに場所(農場)も変わるため、届け出る保健所も都度違った。メニューの提出から、調理法の確認など、開催の度に煩雑なやり取りが続いた。

 保健所の手続きは、消費者の安全を第一に考えたもの。丁寧にやり取りを続けていくなかで、「(フードキャンプとは)こういうことなんだ」という理解も得られた。

 フードキャンプ事業に昨年、震災前まで郡山市内で飲食業に携わっていた寺井昌美さんが加わった。まず、取り組んだのが新たな場所を探すこと。県内くまなく歩くなか川内村にあるワイナリーを見つけた。

 景色の素晴らしさに、「いつかはここで」と思い巡らせていたところ、村からオファーが舞い込む。「以降2回も開催させていたただきました」(寺井さん)。当日は買い物もしたいという参加者のために、軽トラックに野菜や特産品を積んだ「マルシェ」も用意。即興で何かが生まれることも多いという。自身も2年前まで参加者だったという寺井さん。フードキャンプの醍醐味を一言でいうと「非日常感」と表現する。

 同じ試行錯誤でも、楽しさが苦しみに勝ってきたようだ。

地元誇り地方創生へ

 3年目を迎えた今シーズンはWebサイトの開設やNHKあさイチでの放送もあり、取り組みが広く知られるようになった。8月にはコピーライターの糸井重里さんが社長を務める「ほぼ日」とも協業した。「県外からの参加者が増えるなか、風評被害払しょくの一端を担っていきたい」(寺井さん)と前を向く。酒蔵での開催など、福島ならではの新しい試みも始まった。

 孫の手トラベルではフードキャンプを、目的でなく地方創生に取り組む手段と考えている。福島に来る人が増えれば、住んでいる人たちも誇りに思える。寺井さんは「地産地消を通じて、福島を盛り上げたい」という。ツアーは入り口。「取り組みが新しいビジネスを生むこと」(山口社長)にも期待を寄せる。

【鈴木 克範】

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