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「女将のこえ216」河原 千晶さん、不動口館(大阪市犬鳴山温泉)

2018年11月24日(土) 配信

河原千晶さん 不動口館

女将から兼経営者へ

関西国際空港から車で30分。泉佐野市の犬鳴川渓流沿いに不動口館はある。客室や大浴場からは、「大阪府緑の百選」に選ばれた借景が望め、国内外の顧客を楽しませている。

 千晶さんは、7年前に女将兼代表取締役になった。夫で社長の孝俊さんが、若くして病で他界。大学生だった長男の政幸さんは、もともと継ぐ気でいたが、さすがにまだ早い。「中継ぎをする」と千晶さんは決意し、「僕がいなくなっても、時代に取り残されないように改装計画を進めてほしい」との遺志を継ぎ、大規模改装をやり遂げた。

 経営者になったうえに、借金も抱えた不安はいかばかりだったろうか。しかしこの時期、心強い仲間を得られたという。大阪JKK(女性経営者の会)で出会った不死王閣の岡本尚子さん、大和屋本館の石橋利栄さん、南天苑の山﨑友起子さんだ。「気兼ねなく細かいことも相談できて、互いに応援し合える、この巡り合わせがどれだけ心の支えになったか分かりません」。

 千晶さんは少しずつよりよい旅館づくりを進めていった。顧客に対しては、無料で選べる色浴衣の提供、夕食のデザートを水菓子からデザートプレートへ、乳幼児向けグッズの貸し出しなど、スタッフに対しては週休2日制を導入し、半期に一度は1人30分ほど割いてスタッフ面談を行う。そうした効果が表れているのだろう、離職率は少ないという。

 「人の出入りが激しいと旅館の雰囲気が悪くなりますから、そうならないよう人を大切にしています」。

 「何か困っていることはない?」と耳を傾け、希望を受けて導線にクーラーを設置したり、家庭の事情に配慮したシフトに組み替えたり、来年からネイルの学校に行きたいという若い人にはエールを送り、早めに人材確保に動く。

 「主人がいてくれたときは、私は今日のお客さまのことだけを考えていました。でもいまは、スタッフの働きやすさや地域のことも考えます」。

 インバウンドも初の試みだ。「せっかく関空の近くなのに何してんのん」と女将仲間に背中を押され、恐る恐るインバウンド登録をした。「どないなるんやろと思いましたが、スタッフは意外と平気で、身振り手振りでやってくれる。さすが大阪のノリやと感心しましたね(笑)」。

 この取材後、千晶さんは泉佐野の観光会議に出かけた。関空近くの立地を生かし、市全体で観光需要を育もうとしている。今夏、4年間他社で修業した政幸さんが戻り、安心して出掛けられるのだと嬉しそうにほほ笑んだ。

(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)

住所:大阪府泉佐野市大木7▽電話:072-459-7326▽客室数:10室(45人収容)、一人利用不可▽創業:1932年▽料金:1泊2食付14,000円~(税別)▽温泉:単純硫黄冷鉱泉▽3つの宴会場があり、最大で70人収容。夕食は部屋食。市内全体で観光を活性化しようと、(一社)泉佐野シティプロモーション推進協議会にも積極的に参加している。

コラムニスト紹介

ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。

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