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〈旬刊旅行新聞11月21日号コラム〉目に見えない“おもてなし”の技能 旅館女将が初めて「現代の名工」に

2018年11月21日
編集部:増田 剛

2018年11月21日(水)配信 

「現代の名工」として表彰された2人の旅館女将 佐藤幸子氏(左)と小田真弓氏

 

 

日本の宿古窯(山形県・かみのやま温泉)の佐藤幸子女将と、加賀屋(石川県・和倉温泉)の小田真弓女将が11月12日、厚生労働省の2018年度「卓越した技能者(現代の名工)」として表彰された。旅館女将が「現代の名工」に選出されたのは初めてで、お二人は「大変名誉なこと」と喜んでおられた。

 同表彰制度は、「卓越した技能者を表彰することにより、広く社会一般に技能尊重の気風を浸透させ、技能者の地位と技能水準の向上をはかる」ことを目的に、1967(昭和42)年にスタートした。

 今年度選出された150人に及ぶ被表彰者の職種をみると、日本のものづくりを支えてきた旋盤工や漆工、印章彫刻工、表具師、宮大工、かや屋根ふき工、和服仕立職など多岐にわたっている。

 これまで旅館業界では、厨房で腕をふるう調理長らが表彰されてきたが、旅館女将が日々宿泊客に提供する目に見えない、かたちのない、「おもてなし」の技能が「現代の名工」の対象職種となったのは、画期的なことだと思う。

 では、旅館女将としてどのような功績が「現代の名工」として認められたのか。

 佐藤女将は「日本を代表する伝統的な旅館の女将として〝おもてなし〟の技術を後進に伝え、模範的な存在」として高い評価を受けた。

 小田女将は「〝お客様第一主義〟を徹底し、加賀屋流のおもてなしを確立した」とし、「先代から継承した顧客へのおもてなしの心を若い世代に伝え、指導している」点などが高評価を得た。

 大変興味深いことは、両氏が旅館女将として取り組み、認められた功績が、顧客への対応に限らないという共通点だ。

 佐藤女将はスタッフの労働の負担を少しでも軽減しようと、客室の外で食事をする料亭を館内に設置した。

 小田女将も料理搬送システムを導入するなど、肉体的な負担を軽くすることに注力し、客室係がおもてなしに力を発揮できるような環境づくりに取り組んできた。女性社員が子育てをしながら安心して働けるように、保育園と母子寮を備えた専用施設「カンガルーハウス保育園」を設置したことも、社員を大切にする一貫した姿勢の表れである。

 佐藤女将も、小田女将も宿泊客を大切に想う気持ちと同じくらい、スタッフを想う気持ちが強いのが特徴だ。

 旅館業界では生産性の向上が叫ばれている。人手不足も深刻化し、外国人労働者の受け入れに向けた整備も進められている。厚労省がまとめた18年3月末時点の旅館営業軒数は前年度比2・2%減の3万8622軒にまで減少している。しばしば耳にするのは、旅館経営や若い世代の人材育成の難しさだ。

 宿泊業界を見渡すと、ロボット・ホテルや、家主不在型の民泊など、「人を介する」ことを省略する新しいスタイルが近年浸透してきた。一方、外国人旅行者の急増によって、宿泊客同士が交流を楽しむゲストハウスも脚光を浴びている。宿泊業界は今、大きな転換点を迎えている。旅館のおもてなしのスタイルは、時代によっても大きく変わっていく。この激動の最中に、佐藤幸子女将と、小田真弓女将が「現代の名工」に選ばれた意味をじっくりと考えていきたいと思う。

(編集長・増田 剛)

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