「トラベルスクエア」外国人労働者問題契機に
2018年11月25日(日)配信
とあるスーパーマーケット。品物が早朝、お店に入ってくる。どうしてもその荷開け、仕分け、店内搬入、陳列の作業は朝早いうちに終えなければいけない。
そのスーパーは一計を案じ、「急募! 早朝アルバイト、但し年齢制限あり。60歳以上のみ」と書いたチラシをまいたところ、求人予定人数の10倍くらい応募があった。実際に仕事についてもらうと、最初は戸惑うものの、さすが社会生活をたっぷり送ってきた人たち、自分たちで合理的な段取りを考え、スムーズに業務が運ぶことになった。
応募動機の基本は年金だけでは生活費が足りなかったりと経済的なものだが、なかには早朝の運動がてら稼げるなら、という人もいる。
だから、人手不足問題を単純労働=誰でもできる―だから安い賃金で済む、というのでは、やはり成り手が少ないのは仕方ないだろう。短い時間でも濃く、やや高い時給で働く提案があれば、高齢者だって活動できる。そういう発想が必要だ。
今の国会で議論されている外人労働者移入枠の拡大は、当面、宿泊業や外食産業のような下拵えや、裏方作業の部分が多いところには干天の慈雨的な効果があると思う。とにかく目の前の人手不足で、例えば部屋がメークできなくて、お客はいるのに売れないなんて悲劇が横行するのは重大な損失だから、さまざまな難しい問題をはらんではいても、法案の狙いについては理解している。
でも、まずもって、先の高齢者活用などの日本人雇用努力を目一杯やり、また人手をかけないで、かつお客さんにあまり迷惑をかけないオペレーション改革も考え尽くす必要が前提と口酸っぱく訴えておきたい。
外国人労働者を安く使えるからといって大量に導入する対症療法だけでは、いちばん必要な「利益が出て、生産性の向上が賃金アップに貢献する」経営フォームづくりが遅れるばかりだ。
中国をはじめとするインバウンド客数増に頼り切っている今のホテル旅館景気は単純に中国経済が快調だからと考えたい。米中経済戦争もあるし、いつ中国の景気が下降するか予断を許さない。一気に訪日客が減る危険は今も存在する。そうなったら、人手不足が一気に人手過剰になることもありえる。
人件費は状況に合わせて変えるのが経営の手腕ではない。好況だろうが不況だろうが、常にこれこれのコストで従業員満足の働き方と顧客の満足が両立できるようにするというのが、経営の美しいあり方だ。
外国人労働者の導入は決して否定しないし、彼らが本当の戦力になることも期待するのだが、人件費の安全弁で導入するなら、かえって経営体質を弱めていくだろう。
(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健)
コラムニスト紹介
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健 氏
1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年から跡見学園女子大学教授、現職。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。