とちぎ観光安全宣言――各地も栃木県に続け(4/11付)
栃木県の福田富一知事は4月5日、いち早く「とちぎ観光安全宣言」を発表した。3月11日の東日本大震災発生から1カ月も経たない、異例の速さだ。震災による直接的な被害に加え、福島第一原子力発電所の事故による風評被害も越県して広域に拡大しており、栃木県の安全宣言は、深刻な打撃を受ける県内観光産業の救済へ、大きな支援となることは間違いない。
現在も栃木県内の観光地は、隣県福島県など多くの被災者の一時避難所にもなっている。安全宣言では「避難されている方々を励まし、ともに『がんばれ日本、がんばれ日本の観光』を確かなものにしたい」とある。このメッセージが福島県をはじめ、隣県にとっても大きな後押しになるだろう。
直接的な被害の少ない日光や那須といった栃木県の主要観光地でも、例年に比べ観光客が9割減少など、壊滅的な打撃を受けている。ゴールデンウイークや修学旅行シーズンを迎え、県は何としても観光産業を救済する必要性があった。今後、旅行会社などに安全性を積極的にアピールしていく考えだ。
風評被害は曖昧な情報による不安・不信から生じる。このため、栃木県はホームページ上で県内各地の水道水の検査状況や、放射線量の測定結果などの情報を公開。その数値の健康への影響度も示している。
大震災からおよそ1カ月が経過し、混乱状況にあった東京も徐々に、日常生活の風景に戻りつつある。
ぽかぽか陽気の午後、近くの上野公園を歩くと、のどかに不忍池でボート遊びする人々や、花見客相手に威勢のよい声を掛ける露天商たちの姿が目に付いた。少しやさぐれた中年女性が、池の手すりに凭れ煙草を吸いながら鴨を眺めていた。2人組の女子高生が「『餃子の王将』に行こう!」と元気に掛け出していた。日常生活が始まっているのだ、と感じた。ACばかりが流れていたテレビも、今やバラエティー番組がゴールデンタイムを埋め尽くしている。 「人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない」という坂口安吾の「堕落論」の言葉がいつも思い浮かぶ。日常生活の先にある、人間の旅への欲求もできあがりつつある。
栃木県に続き、各地で観光安全宣言が出されることを願っている。
(編集長・増田 剛)