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〈旬刊旅行新聞12月1日号コラム〉オートバイ独走 1人でいることを最も楽しめる時間

2018年12月1日
編集部:増田 剛

2018年12月1日(土)配信 

写真はイメージ

 

春先から同じ道をオートバイで走っている。神奈川県の宮ヶ瀬湖に続く川沿いの道だ。この道は、やがて細い山道に変わる。信号がないのがいい。野球のグラウンドや、野の花が咲いている河原を眺めながら、季節の移り変わりを感じることができる。晩秋から初冬のこの時期には、ススキが揺れる。

 山道の途中には、オギノパン本社工場に併設する直売店がある。ここはいつも人気である。時折立ち寄って、丹沢あんぱんを買うこともある。

 宮ヶ瀬湖の駐車場には、多くのオートバイが集まって来る。とくに休日には、見本市のようだ。

 ハーレーダビッドソンの集会もしばしば行われている。かなり高齢化したおじいさんたちが自慢の愛車を並べて楽しそうに話している光景を、行く度に目にする。

 つい最近では、GB250クラブマンや、CB750F、FZR750などの集会も行われていた。宮ヶ瀬湖にはヴィンテージのオートバイも集まってくるので、1台1台眺めて回るのも楽しみの一つだ。

 私自身、目的地に定めた宮ヶ瀬湖で何をするわけでもなく、また誰か知り合いがいるわけでもなく、小一時間、ぼんやりと過ごすだけである。缶コーヒーを飲んで体を温めると、再びエンジンをかけて家路に向かうのである。

 そして、よく見ると、自分と同じような人が多くいることに気づく。ついこの前も、モンキーに乗って、しばらく休憩したあとに去っていく初老の男や、RZ350Rに乗った10代の男の子も、寡黙な時を過ごして静かに去って行った。カワサキのオートバイに乗った若い女性もいた。1人でベンチに座ってペットボトルのコーヒーを飲み、しばらく湖を眺めたあと、フルフェイスのヘルメットをかぶり、前傾姿勢で来た道を帰って行った。

 駐車場のあちこちで、多種多様なグループが騒がしく集会を行っているなかで、1人でオートバイに乗って来て、やがて静かに去っていく姿は一見、孤独に見える。しかし、実はそうではないのだろう。個人的な経験からも、オートバイに乗って、独りぼっちで走ることは、「1人でいることを最も楽しめる時間」と感じるからだ。

 生きていくうえで、しがらみに縛られることからは逃れられない。どんなに単純な生き方をしようとしても、人との関係性は複雑化していく。幾多の場面で、関係する人たちに助けられているにも関わらず、勝手なもので、時に煩わしく感じることがある。他人との関係を良好に維持していくことは、努力以外の何ものでもない。

 また、高度なネット社会においては、誰とでも簡単につながることができるが、一旦つながると、容易く逃げることができない。大きな利便性への代償は、知らずうちに積み重なっていく。

 1人でオートバイに乗って湖を訪れる人の孤独な姿は、社会の息苦しさから“一瞬だけ”解放されたように私の目に映る。その孤独さが清々しく見える。熱い缶コーヒーを片手に、彼らの人生について、さまざまな想像をするのが楽しい。

 しかし、季節は巡る。もう寒くなってきた。先日、少し厚手のグローブを買った。山道なので、そろそろ道路の凍結も心配だ。

(編集長・増田 剛)

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