田舎と都会の魅力を知る ― 本気でカッコイイ宿(12/1付)
本紙11月21日号の連載コラム「トラベルスクエア」で、松坂健さんは「旅の醍醐味とは、旅をやめること」と書いている。「どんな都市も観光地も、そこが『留まる』に値するような価値を持っているかどうかが評価軸」と主張している。「旅で訪れた地に暮らす」という究極の旅の醍醐味を、旅慣れた松坂さんらしい旅人の視点から逆説的に語っている。先日、「秘湯・古湯をめぐりて」という本を出版した桂木誠志さんと夜、会食した。その際に、桂木さんは「今夏の定年を機に、来年故郷の熊本県天草市に戻って若者が生活できるようなまちづくりをしたい」と熱弁をふるった。「観光客もいいけど、それだけでは単なる消費にすぎないからね」。
「田舎」と呼ばれる多くの地域は、第一線をリタイアした都会暮らしの熟年や高年層向けに、自給自足可能な田畑とともに定住できる民家の提供などを行っている。一過性の旅による消費ではなく定住なので、受け入れる自治体としてはありがたい話ではあるが、桂木さんは若者の定住にこだわる。「若い人が天草で働き、結婚し出産して生活していく。そのためには若者がしっかりと働き、生活できる雇用の仕組みを創り出していかなくてはならない」という。難題には違いないが、挑戦しがいのある取り組みである。
一橋大学の学生で、学生社会団体TI―RAの代表を務める知花喜与丸さんは、自分が生まれ育った沖縄では、若者が「未来に不安を感じている」と危惧し、「沖縄を担う次世代の若者がちゃんと就業し、活躍できる市場・価値・文化を持った沖縄になるように」と、地元の大学生を集めて「沖縄県活性化ビジネスアイデアコンテスト」を実施した。今後もさまざまなイベントを企画していくという。多くの地域では、若者がやりがいを感じて働く場が少ないので田舎を捨て上京し就職を求める。
しかし、東京だって全国の若者が競って安定的な企業を目指してくるから就職難で、今春の大卒の就職率が61・6%という信じられない数字が出ている。
大事なのは、田舎と都会の両方の魅力を知ること。そのうえで地域に根差し、地域の若者たちの雇用を確保しながら、都市生活者たちが憧れる豊かで文化的な空間と時間を築き上げる旅館などは、本気でカッコイイと思う。
(編集長・増田 剛)