新たな観光行政 ― 「観光の役割」発信と実行(4/11付)
4月1日付で観光行政のトップが変わった。2008年10月1日に発足した観光庁の3代目長官に、国土交通省出身の井手憲文氏が就任した。
過去にはトップ人事に政治的な力学が働いて翻弄された面もあると聞く難しい立場だ。また、初代長官と2代目長官が模索しながらそれぞれ開拓した道や、手法の違いを受けて、3代目の井手長官が今後どのように観光行政をリードしていくか、重責であるが期待も大きい。
3月30日には、新しい観光立国推進基本計画が閣議決定された。2012年度から16年度までの5年間で、訪日外客数1800万人や、日本人の国内観光旅行による1人当たりの宿泊数を年間2・5泊(10年度は2・12泊)とするなどの目標値も掲げられている。同基本計画のなかには、リピーターの獲得の重要性を指摘する箇所が随所に見られる。限られた予算の中で他省庁の関連分野とも連携しながら、「観光の観点を念頭に置いた」取り組みの必要性も強調されている。それであるならば近い将来、観光省となるべく道筋を立てていくほどの覚悟がほしい。観光庁が発足以来、予算が倍増され、注目度が高まったことは確かだ。しかし、母体である国土交通省が決定した交通政策に従わざるを得ないし、休暇改革では厚生労働省や文部科学省の強靭な壁が存在する。さらに、原発事故対応や、なおも原発推進を目論む経済産業省と、観光推進政策で衝突する局面に対しても、観光庁が毅然たる態度で物を言うにはまだ力不足だ。財務省に対しても、観光庁と観光省では予算要求の重みが違う。貿易収支が赤字化し、人口減少時代の緊縮しがちな日本にあって、全国の毛細血管に至るまで、「新たな血流を起こすことができるのは観光なのだ」と役割を強く発信し、実行していかなければならない。
一方、観光地も従前のように、「旅行者が来てくれるからいいのだ」という姿勢では、いずれ淘汰される。極めていない味で観光客向けに割高の食事を提供したり、ほんの少し“ご当地”版にアレンジしただけの安易な土産品を陳列したり、旅館のビールやジュースが通常の2、3倍の値段で売っていたり。サービス過当競争時代に、そんなものばかりでリピーターが訪れるだろうか。現代的な感覚を持つ旅行者には、もうそれらは通用しない。
(編集長・増田 剛)