旅行会社の可能性 ― 新たな団体旅行復活を(5/1付)
強すぎる横綱は憎まれる。昭和の大横綱・北の湖は恵まれた強靭な肉体と圧倒的なパワー、巨体に似合わぬ敏捷性を備えていた。さらには過去の対戦をすべて記憶する頭脳を持ち合わせて、同時代のライバルを圧倒した。そのあまりの強さに平幕力士なんぞに敗れた瞬間には、館内の座布団が嵐のように土俵に舞い上がった。大横綱が負けるということは、これほど一大事なのだと、小学生だった私はひどく感動したものだった。その後現れた千代の富士も強かったが、小錦など巨漢力士との対決では、綱渡りのような相撲もあり、憎まれるほどの絶対的な強さは感じなかった。以後、北の湖と同じくらい憎々しく映るほど強かったのは、平成の大横綱・朝青龍くらいだろう。
さて、観光業界では、昭和の終わりから平成の初めにかけて、旅行会社の最強っぷりは、まさに憎まれるほどの大横綱だった。航空会社も、宿泊施設も、バス会社も、ドライブインも旅行会社のあまりの強さに、「打つ手なし」という様相だった。しかし、その後団体から個人化へ、さらにはIT化の進展で勢力地図は書き換えられようとしている。旅行会社はこのまま、宿泊予約サイトに取って変わられてしまうのだろうか。
この10年は、専門特化が叫ばれ、総合への風当たりが厳しかった。だが、大手旅行会社となれば、団体も個人も、国内も海外もすべての「旅」に関する消費者ニーズに対応したいという自身のプライドとの戦いもあった。多方面展開のなかで、団体旅行は年々減少する一方だし、個人客は宿泊予約サイトに取られてしまい、今や「ジリ貧やむなし」という諦観も見える。
今号の3面のコラムで、旅行作家の野口冬人氏がホテル磯部ガーデンの団体旅行を迎え入れる素晴らしい姿勢について言及している。大型の温泉旅館から企業に「温泉で会議をすることが元気の秘訣である」という発信をすべきであるとの指摘であり、ぜひ参考にしてほしい。
旅行会社は新たな需要を生み出しているだろうか。団体旅行は本当にこれから尻すぼみなのだろうか。「もう一度、新たな団体旅行を復活させてやる!」という考えやパワーがほしいところだ。個人化対策よりも、都会で急成長するIT企業の大型団体研修を日本古来の温泉地に誘うことが旅行会社の使命ではないか。
(編集長・増田 剛)