高速ツアーバス事故 ― 皆で「安全な仕組み」を(5/11・21付)
ゴールデンウイークの4月29日に関越自動車道で発生した高速ツアーバスの事故は悲惨を極めた。頑丈なはずのバスの車体が引き裂かれるように大破したニュース映像を見ながら、飛行機事故のようだと思った。
私自身、車を運転して旅をするのが好きで、1日1千㌔を運転した経験もあるが、助手席に誰かいた。40人以上を乗せて、行政が目安とする上限670㌔を独り運転するとなれば、相当に精神的な重圧を感じるはずだ。それも最も睡魔が襲う深夜から夜明けにかけて運転し続けるのは不可能に近い。実際、深夜高速道路を走っていると、トレーラーや大型バスがフラフラと車線を跨ぎ、行きつ戻りつしている場面を何度も目撃しているだけに、とても残念だが起こるべくして起こった事故だった。高速道路では、わずか1、2秒前方から目を離しただけで大惨事につながる。自動操縦が可能な飛行機でも機長のほか、副操縦士もいるが、長距離を走る高速バスは運転士2人体制が絶対に望ましい。ただ、現状では価格競争が激化し、コスト削減の魔の手が最低限の安全確保の領域まで伸びている。監督官庁は、しっかりとした新たな安全管理の基準をつくってほしい。これが運転士を守り、正当なバス会社を守り、乗客を守ることにつながる。
規制緩和によってバス業界はとても厳しい状況になった。貸切バス事業者は2000年の2864社から09年には4392社に激増。車両も3万6815両から4万6676両に増えている。過当競争が激化し、運賃低下により採算の合わない大手バス事業者は貸切バス事業から撤退する一方で、中小零細バス事業者は人件費や設備投資を極限まで抑える流れができてしまった。運転士の労働環境は悪化し、車体の整備も手薄になり、利用者の安全性が低下する悪循環が続く。
日本バス協会は「行き過ぎた規制緩和の早急な見直し」を強く要求しながら、11年度からは「貸切バス事業者安全性評価認定制度」によって、安全性の高い貸切バス会社を選択できる取り組みを行っている。12年5月1日現在、222事業者(8307両)が認定されている。
高齢化社会を迎え、バスのニーズは今後さらに高まるだろう。バスの「安全な仕組み」を皆でつくっていかなければならない。
(編集長・増田 剛)