「旅」が専門の旅行会社 ― 潜在願望を掘り起こせ(8/11・21付)
JR各社の広告は上手い。JR東海の「そうだ京都、行こう。」シリーズは毎度旅情をそそられる。JR東日本の「大人の休日倶楽部」は、吉永小百合さんを起用した長野県「戸隠」編など魅力的なシーンをたくさん演出している。JR九州の九州新幹線全線開通のコマーシャルも感動的ですごく良かった。
テレビや雑誌などを見ていて、ふと、「旅行に行きたい」と思う瞬間にときどき出会う。何気ない情景ほどいい。海沿いを走る列車から人のいない青い海を眺め続ける。そして停車した駅で、弁当売りのおばちゃんが駅弁の箱を持って現れるというような映像を見たなら、きっと旅に出たいと思うだろう。風情ある旅館の2階で蝉の声だけを聞いている光景も旅情をかきたてる一場面だ……。日常とは異なる空間に身を置きたいという欲求と、それ以上に「いつもとは異なる時間を過ごしたい」という潜在意識が、おそらく誰にも潜んでいるのだと思う。
さて、私は何が言いたいのか。旅行会社がテレビコマーシャルを打つのは大賛成なのだ。けれど、それが果たして根本的な部分で旅行需要の掘り起こしにつながっているのかという疑念が最近フツフツと湧いてくるのだ。自社の広告宣伝費に他人がとやかく言うべきものではない。だが、旅行の専門会社であり、「旅」を唯一の商品とする旅行会社の広告には、名の売れたタレントを起用して「安売り」をアピールするだけではなく、「旅行会社にしかできない」練り上げられた力技を見せつけてほしいと願ってしまうのである。その点、先に挙げたJR各社は、テレビコマーシャルをはじめ、雑誌広告、ポスター広告も本気度が伝わってくる。
スマートフォンばかりに夢中になる若者や、携帯電話で雁字搦めになったビジネスマンを旅に行かせるにはどうすればいいか。パソコンに囲まれたオフィスでスマホを床に叩きつけ、そのまま旅に出るシーンを演出すればいい。多くの現代人は閉塞的な社会に飽き飽きし、わずか数日間でもいい、スマホの電波の届かない「全き自由」な場所に逃れたいという潜在願望を抱いているのではないだろうか。
旅行会社には、現代社会へのアンチテーゼとして少々過激であったとしても、そのくらいの意気込みで、「旅に出ること」の意義を見せつけてもらいたいものだ。
(編集長・増田 剛)