「オンリーワンのまち」事業 ― ふるさとの“宝”を発掘
東日本大震災をきっかけに多くの人々が、自分の生まれ育ったまちや、かつて住んだ思い出のまち、そして今住んでいるまちに対する思い入れが強くなったのではないだろうか。大津波や原発事故の恐ろしさを知り、在りし日の風景を失った人々、ふるさとに帰りたいのに帰れない人々の強い思いが、多くの人の胸に浸透しているのだろうか。東京で昼夜なく働くビジネスマンも、旅先で一瞬薫る草いきれに切ない気分になる――あの甘い、ふるさとへの郷愁の念を胸に宿しているはずである。
知名度の高い「全国区」の観光地でないかぎり、大都市であっても、自分の生まれ育った地域が「オンリーワン」の場所だと胸を張ってあまり考えないものだ。そしてつい、「どこにでもあるまちです」と自己紹介してしまう。私の生まれた小さな町も、この東京では誰も知らない。京都や鎌倉のように有名で、誰もが憧れるようなまちを羨んだ時期もあったが、今となっては、やはり自分が生まれたまちは、かけがえのないまちなのだと遅まきながら最近そう考えるようになった。ふるさとのまちの素晴らしさは分かっていても、未だそれを上手く他人に伝えることはできない。
NPO法人ふるさとICTネット(髙津敏理事長)はこのほど、千葉県鎌ヶ谷市(清水聖士市長)を「オンリーワンのまち」第1号に認定し、9月12日に同市の市長室で認定授与式を行った。鎌ヶ谷市といっても、千葉県民以外には、それほど知名度は高くないはずだ。人口11万人弱で東京都心から成田空港に行く途中にある長閑なまち。だが、ここは全国でも珍しい「雨の三叉路」の地でもあるのだ。同市の中心市街地は標高約29㍍程度でありながら、降った雨は、手賀沼、印旛沼、東京湾の3方向に分かれて流れる分水嶺(界)であり、その場所に市民の方々がモニュメントを設置し、市に寄贈している。実際、このモニュメントの傍らに立ったが、3方向に分かれる分水嶺だという実感は湧かない。しかし、水はここを頂きに下流に向かって行く。市民の環境保全への意識も、「知る」ことによってさらに高まっていくだろう。
どのまちにだって素晴らしい「オンリーワン」の風土や、文化、自然がある。ふるさとICTネットは、それらまちの宝を今後もどんどん発掘していく考えだ。
(編集長・増田 剛)