ピンクリボン月間は温泉に ― 心や体の傷を癒す力
10月はピンクリボン月間である。旅行新聞が事務局を務める「ピンクリボンのお宿ネットワーク」(会長=畠ひで子・匠のこころ 吉川屋女将)が7月10日に設立し、現在50軒を超える旅館・ホテルが参画している。12月には参画する宿の詳細を掲載した冊子を発行する予定だ。
このようなピンクリボン運動に賛同する全国的な宿のネットワークがなかったためか、あらゆるメディアにも取り上げられ、一般の方々からも「早くネットワークに参画する宿の冊子がほしい」という声が毎日のように届いてくる。また、ネットワークに参画したいという宿からの問い合わせも多い。
乳がん患者さんの多くは、術後、温泉に行きたい気持ちが強まる一方で、家族や友人を悲しませたくないと悩み、大浴場に入ることができないでいる。ピンクリボンのお宿ネットワークでは、年間約5万人といわれる乳がんの手術を受けた患者さんと、その家族にも温泉旅行を楽しんでもらいたいという気持を表明し、「脱衣所の照明を少しだけ暗くする」「体を洗う場所に仕切り板を付ける」「体を隠すタオルを自由に使っていいように脱衣所に置いておく」など、ちょっとした心がけをさりげなくしていこうと、第一歩を踏み出した。ヨチヨチ歩きのネットワークなので、参画する旅館ホテルを対象とした、勉強会やセミナーの開催も予定している。また、ロゴマークも決まった。「ピンクリボンのロゴマークがあるだけで、私たちは安心するんです」という患者さんの言葉を、1人でも多くの旅館関係者に届けたいと思う。
古来から温泉は、人や動物の傷を癒してきた。歴史のある温泉地は、鶴や鷺、鹿や猿などの傷を治したという伝説がたくさんあるし、武田信玄をはじめ、戦国武将の隠し湯は全国至るところにある。また、農作業で疲れ切った人々が収穫後に骨休めにゆったりと温泉に浸かってきた湯治宿の歴史もある。近年は団体慰安旅行や、観光旅行として温泉旅館が脚光を浴びた時期もあったが、もう一度あらゆる人々の病気や傷を癒してきた温泉の力に目を向けるときが来たのではないだろうか。
乳がん患者だけではなく、大きな病気やケガを負った人は体だけでなく、心にも傷を負っているはずだ。温泉はその傷すらも癒す、大きな力を持っているのだ。
(編集長・増田 剛)