国際都市新宿・歌舞伎町 ― 独特の匂いを発散する街
新宿・歌舞伎町を訪れたのは何年ぶりだろう。学生の頃の新宿は、丹下健三が設計した東京都庁舎が天を目指して伸びていた。“バブルの塔”都庁舎を見上げながら、ほぼ毎日、歌舞伎町を訪れていた。田舎から出て来たばかりの“ストレンジャー”には、「来るものは拒まず」という空気が満ちている、間口の広い新宿東口の空間が心地良かった。やがて東京での生活に慣れ、新宿から足が遠のいた時期と、石原慎太郎氏が都知事となった時期が重なる。都知事のお膝元「新宿」の街は改革が進んでいった。猥雑の極北である歌舞伎町のクリーン化が進み、新宿都庁前をスタートする東京マラソンも定着してきた。
そして、突然の石原都知事の辞任。膿が溜まり、機能不全状態の現在の国政を浄化できるか。良きにしろ、悪しきにしろ大きな影響を与えそうだ。一方、指揮官空席の首都・東京は、新しい顔を待っている。
さて、久しぶりに歌舞伎町に入ると、コマ劇場が建て替え中で、ぽっかりと穴が空いた状態だった。それでも歌舞伎町らしさは健在だった。ホストクラブ、ヌード劇場など人を呼び込む看板の宣伝文句や絵柄が直球勝負で、何を売りたいのか分かりやすいことが目に新鮮だった。行き交う人たちがどんな職業なのかも一目瞭然。丸の内や、霞が関界隈の「エリートエリア」に出向く機会が増えたが、そことは明らかに空気が違う。どちらも独特の個性的な空気が漂う空間であり、とんがった肌触りが魅力的なのは同じだ。東京には渋谷系やアキバ系など、ほかにも独特の空気を生みだす空間があり、さまざまな呼称もある。20代までの私は間違いなく新宿系だったが、今はマイルドな湯島系である。
新大久保に近い職安通りは、コリアンタウンとなっていた。改めて気づいたのは、海外の街を歩く時に感じる独特の匂いを新宿は発散していた。ニューヨークの地下鉄の饐えた匂いや、ロンドンの中華街に漂うエスニック臭などが複雑に混ざり合うような、「都市の体臭」である。今の新宿・大久保・高田馬場エリアは完全な国際都市である。ムスリムスポットも増えている。そこに生活する人々の匂いが街に馴染んでいる。おそらく歌舞伎町周辺は、今後加速的に世界中の異邦人を受け入れて行くだろうという予感が漂っていた。
(編集長・増田 剛)