「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(95)お客様を守るおもてなし 「想いのバトンリレー」
2018年12月10日(月) 配信
「この先のドラッグストアは、午後10時まで開いていますのでまだ間に合うと思います」。携帯の画面を見せながら教えてくれたのは、たまたま立ち寄ったコンビニエンスストアのスタッフでした。クライアント企業の方によると、街でも評判のスタッフということでした。
ある日、私は出張先のホテルで朝から腰に違和感がありました。前日の東京は冷たい雨が降り、チェックインした部屋はひんやりと寒く、室内の空調温度を上げてもなかなか暖かくなりません。29度まで上げても同じです。表示をよく見ると冷房表示でした。
設定を切り替えようとしても駄目でした。フロントに連絡すると「まだ、暖房設定にできません」と言われ、仕方なくそのまま寝ることにしました。その結果、翌朝には身体が冷えた影響もあり、腰が痛くなりました。
朝の新幹線で移動してスタッフと合流し、クライアント企業の車に乗り込んでからも、痛みはひどくなる一方でした。その日の業務を終えて、夜遅くにホテルまで送ってもらい、早めに就寝することにしました。
すると、その1時間ほどあとに部屋のドアがノックされ、スタッフが「これを使ってみてください」と湿布薬を買ってきてくれたのです。
私が部屋に入ったあと、彼はクライアント企業の方にその湿布薬を買うためにコンビニまで送ってもらったそうです。そのとき、コンビニスタッフのすばらしいおもてなし行動に出逢ったというのです。
ただ、そのコンビニには湿布薬はありませんでした。困っていると「ちょっとお待ちください」「これで代用できないでしょうか」と、保冷剤をいくつか持って来てくれたそうです。「どうだろうか」とスタッフがそれを手にしながら考えていると、「もう少しいい物がないか探して来ますね」、と店の奥に戻り携帯電話を手に出てきて、掛けてくれた声が文頭の言葉でした。
「西川さん、すごくないですか、この接客」と、翌朝ニコニコとその話をしてくれるスタッフを見て、本当に感動しました。
お客様の要望は叶えてあげたい。だから、「できない」とは言わない。よくそんな言葉を聞きます。しかし、現実に提案される内容は、あくまで自社のビジネスの中でのことが多いものです。ところが、今回のように競合ともいえるお店を、お客様のためにわざわざ手間をかけて調べて教えてくれる姿に、スタッフは驚いたのです。
湿布薬があれば少しは楽になるかもしれないという想い。お客様に最良のものを手にしてもらいたいという想い。こうした想いのバトンリレーこそが、感動を生むおもてなしなのではないでしょうか。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。