御菓子御殿の創業者・澤岻カズ子氏 ― 沖縄にお菓子文化生む
沖縄は日本有数の人気観光地。今月初めに出張で沖縄に向かったが、飛行機の座席が取れないほどの混雑ぶりだった。
沖縄が観光地として魅力的なのは、美しい自然に加え、そこに住む人々が琉球王国時代からの独特な文化・風習・価値観を持ち続けているからだろう。食文化も風土に根差した独自色が際立ち、旅人には面白い。
そんな沖縄も太平洋戦争末期の沖縄戦以後、1972年の日本復帰までの間、米軍の施政権下に置かれ、米国文化を色濃く残すことになった。お菓子も、米国からチョコレートやドーナツなどが輸入され、アメリカナイズされていった。日本復帰直後には米国の輸入菓子か、本土で作られた“沖縄風”菓子がほとんどで、昔ながらのサーターアンダギーやちんすこうなどを除けば、沖縄を訪れた観光客は、お土産には米国からの輸入菓子を買って帰るのが常であった。
日本復帰当時、沖縄県読谷村で小さなお菓子屋が生まれた。現在、沖縄のお土産で一番人気となった御菓子御殿の「紅いもタルト」だが、澤岻カズ子社長が村おこしの一環として紅いもタルトを苦労の末、生み出したのだ。澤岻社長は「沖縄にオリジナルのお菓子を作りたい」との一心で、当時あまり作られていなかった紅いもを集めたり、品質改善などを行い、今や沖縄旅行でのお土産の定番商品にまで成長させた。この辺りの苦労話や誕生秘話は、本紙6月1日号の澤岻カズ子社長のインタビュー記事で紹介する予定だ。
御菓子御殿では、お土産のお菓子にとって優先順位の高い「日持ち」とは正反対に、無添加・無着色、そして「作り立て」を食べてもらいたいという想いが強い。その日の観光客数を予測し、できるだけ翌日までに販売してしまう。今では1日9万個、多い日には1日15万個を作っても追いつかない日もあるという。製造業の少ない沖縄で500人を超える雇用創出にも貢献している。沖縄観光を活性化するエンジンの一つだ。
残念なのは類似品が多いこと。途中の苦労をすっ飛ばして他社のヒット商品の類似商品を販売するのは観光業界の悪しき慣習だ。近隣諸国でも類似品が横行しているが、汗をかき、苦労を重ねたオリジナル商品との文化度の違いは歴然である。とくにお菓子の場合、作り手の愛情は必ず消費者に伝わるものなのだ。
(編集長・増田 剛)