耐震診断と改修工事の義務化 ― 旅館を「防災拠点」に
耐震改修促進法の改正により、「2015年12月末までに耐震診断が義務化」され、「できなければ結果を公表する」という内容に、旅館・ホテル業界は大きく揺れている。
対象となるのは、1981(昭和56)年以前に建てられた5千平方メートル以上の建築物。しかし、規模が対象以下であっても「適マークが義務付けられると、旅行会社などから送客がなくなる」などの不安も大きい。
「宿泊客の人命・財産を守るため」という趣旨には、宿泊業界も反対していない。問題は、耐震診断・工事には莫大な費用を要することである。全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の緊急特別対策委員会によると、3千平方メートルの鉄筋コンクリートの建物の場合、耐震診断に約600万円がかかる試算を出した。また、診断を受けるには「設計図書」が必要で、もし構造図がなければ図面の調査・作成も必要で、これにも数百万円の費用がかかるという。さらに、改修工事に取りかかれば、3千平方メートルの建物の場合、5千―1億5千万円が必要となる。
全旅連では、あまりの性急さに、“死活問題”として、政界などに要望書を提出するなどして、国土交通省が当初計画していた「耐震診断ができていない施設の名前の公表」は「しない」方向に追い込んだ。とりわけ宿泊業界を不安にしているのが、国と地方公共団体の補助金の問題だ。国交省住宅局の橋本公博審議官は5月10日に行った全旅連の佐藤信幸会長との対談(6月1日号掲載予定)で、各都道府県の担当者には直接「補助金のことを頼んである」とし、「旅館ホテルが地域の防災拠点として認めらるよう国として最大限配慮する」と述べた。また、自民党観光産業振興議員連盟幹事長の望月義夫氏は5月14日の本紙単独インタビュー(6月1日号掲載予定)で、「耐震改修促進法の改正には補助金とセットが条件であり、仮に『補助金が出ない』というような都道府県があれば、我われ観議連に言ってほしい」と語っている。
旅館・ホテルが避難所など「防災拠点」として認められると、改修の補助金は最大で国が5分の2、地方公共団体から5分の2が拠出される。佐藤全旅連会長は「東日本大震災では被災者を約525万泊受け入れた」実績を挙げ、災害時の防災拠点としての役割を強調していく考えだ。
(編集長・増田 剛)