「女将のこえ217」渡辺 克江さん、沖縄第一ホテル(沖縄県那覇市)
2018年12月22日(土) 配信
□ 薬膳朝食と「ただいま」と
賑やかな国際通りの牧志交差点から数分。シーサーが守る門をくぐれば、庭を囲んだ家庭的なホテルに到着だ。
実母の島袋芳子さんが創業した沖縄第一ホテルは、安里から牧志への移転や、次女の克江さんへの後継を経て、いまでは常連客の曾孫までが訪れる特別な場となっている。
克江さんにとって、ロビーはリビングだった。「昔は夜警もフロントも食事も母がやっていたので、私はそばにいたくて、いつもロビーにいました。3歳くらいから好きで接客を始め、敬語も自然と覚えました。『いい子だね』と褒めてもらえるのが嬉しかった。宿題に付き合ってくれたお客さまもいます。この仕事が嫌と思ったことはないんです」。
一度だけ、「ホテルと私、どっちが大事?」と聞いたことがある。「母は、『もちろんあなたよ』と、すぐに言ってくれました」。
短大を出て、東京で5年働いたあと、母の要請もあって沖縄に帰省。そのまま気負いなくホテルを継いだ。
沖縄第一ホテルを語るうえで欠かせないのが、「ヌチグスイ」(沖縄の言葉で命の薬)とした「薬膳朝食」だ。
50年ほど前、母の芳子さんのヨーロッパ旅行がきっかけだった。はるばる外国に来たのに、どの国の朝食も日本でも食べられるトーストと卵ばかり。
「そこで、うちでは沖縄らしい朝食をお出ししようと考えました。ハンダマは血の巡りを良くし、長命草は体のさびを取る。沖縄では琉球時代からクスイムン(体にいい食事)を作ってきた。管理栄養士さんの助言も受けて一食585㌔㌍に抑え、約50品目がとれるようにしています」。
筆者も公私で2度いただいたが、テーブルいっぱい、小皿に少量ずつ盛られた薬膳朝食の美しさと美味しさが心に残っていた。
「91歳の母は、今でも厨房で料理を手伝ってくれています。盛り付けるお皿や味付けが違うと、いまだに叱られます(笑)」。
実は、克江さんにはもう一つの顔がある。アナウンサーでラジオパーソナリティでもあるのだ。沖縄RBCテレビやイベントで活躍し、地元FMラジオの番組も持つ。確かにこの取材依頼の電話からすでに声音が心地よく、期待が高まった。しかも、厨房を担う義兄の上地正則さんも驚くほど親切な電話対応で、「ただいま」を言いたくなる顧客の気持ちが分かる気がした。
「どの仕事も、相手に『ああ楽しかった』、『心地よい時間を過ごせた』と思ってもらえることを目指しています」と克江さん。大好きな沖縄で、また会いたい人が増えた。
(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)
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住所:沖縄県那覇市牧志1-1-12▽電話:098-867-3116▽客室数:5室(8人収容)、一人利用可▽創業:1955年(2011年に現在地に移転)▽料金:1泊2食付16,200円~、素泊まり7,000円~(税別)▽数々の骨董品が置かれ、販売も。薬膳朝食(3,240円)は宿泊客を優先に、食事予約可。克江さんは野菜ソムリエプロと国際中医薬膳師の資格も。
コラムニスト紹介
ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。