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「女将のこえ218」伴 千恵子さん、湯乃宿 清盛(栃木県湯西川温泉)

2019年1月27日(日) 配信 

湯乃宿 清盛 伴千恵子さん

 大人と犬限定の温泉宿

 
昨年11月1日。わんわんわんの日に、湯乃宿 清盛は犬と一緒に泊まれる宿としてリスタートした。

 
 千恵子さんと夫で板長の克也さん、次女夫妻の佳穂里さん、裕一さんの4人で家族会議を開き、満場一致で決定。両夫妻はそれぞれ大型犬のビリー、小型犬のベルと暮らしており、「ペットは家族」と考えているのだ。

 
 とはいえ、清盛はもともと大人限定の宿。これに加えて「大人とペットのみ」と、さらに対象を絞るのは勇気がいったという。

 
 「でも、いまテレビをつけるとペットと料理ばかりでしょう。需要があると思ったんです」と千恵子さんは語る。実際、12月末までの2カ月間で、30匹が泊まりにやって来たという。

 
 宿泊客が喜ぶのは、館内のどこでもペットと一緒にいられるということだ。「私たちも犬を連れて、そういう施設に泊まりに行きましたが、客室以外はペット不可のエリアが意外と多くて、私たちもビリーやベルも寂しい思いをしたんです」。

 
 そこで清盛では、大浴場の浴槽以外は、脱衣所も食事処もどこでも同伴可とした。それで問題が起きたかというと……。

 
 「起きません。私たちも驚いたのですが、想像以上にしつけが行き届いているんです。正直な話、昔、お子様も受け入れていた頃よりずっとマナーがいいんですよ(笑)」。

 
  しかも、犬を介して宿泊客同士の交流が自然に生まれるのも嬉しい効果だった。

 
 今市市でピアノの先生をしていた千恵子さんが、縁あって湯西川に嫁いで39年。当時は寿司居酒屋でまだ旅館ではなかったが、「先代には温泉を掘る勇気があった」と言う。

 
 湯西川といえば、平家落人が傷を癒したとされる歴史ある温泉地だが、近代になって自分たちで新たに温泉を掘る人はいなかった。湧出に成功してしばらくは、日中は日帰り温泉、夜は居酒屋を営んだ。この時期は、将来の旅館経営を考える時間にもなったようだ。

 
 居酒屋には、近隣の宿泊客や働く人が夜食を食べによく訪れ、彼らの本音を耳にする機会があった。

 
 「料理が冷めてちゃ駄目だよな」、「俺たちばかり働かせて」と。

 
 「それなら、私たちが率先して働こうと思い、家族4人だけの経営になりました。また料理は、厨房に食事処を併設し、出来立てをお出しできるようにしました」。

 
 宿としては後発だと、伴さん夫妻は口を揃えるが、新しい挑戦を続けてきたから今がある。「大きくなくていいから家族で楽しく働きたい」、それが千恵子さんの願いだ。

(ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)

住所:栃木県日光市湯西川980▽電話:0288-98-0500▽客室数:5室(16人収容)、一人利用不可▽旅館創業:1998年▽料金:1泊2食付9500円~(税込)▽温泉:アルカリ性単純泉▽獣医の助言で犬の食事は提供なし。大人だけの宿泊可。犬用の浴衣がインスタ映えすると好評。伴さんは湯西川温泉女将会会長。

 

コラムニスト紹介

ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。

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